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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第四部】 隊商都市の明けない夜(前編)
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騙し合い(前編)

 ふーっとアルザイが大きく息を吐いた。

 そのついでのように言った。


「ライア。今の話、どう判断する?」


 名を呼ばれて、ライアは胡乱げな視線をアルザイに向ける。しかし、つっかかって無駄な時間を浪費することはなかった。

 反応を窺っていたイグニスに向き直り、澄んだ声できっぱりと言った。


「双方の利益にはなり得ません。その提案、『隊商都市』にはほぼ良いことがありません。……理由も?」


 最後の一言はアルザイに向けて。

 黙したまま頷かれ、軽く睨みつけてから続けた。


「隊商都市の長の至上命題は『隊商路の安全』です。あれほどの規模の()()()()()、その行程が各地から注目を集めている一行を、都市の壁内で虐殺するなんてありえません。砂漠の黒鷲は財宝に目が眩んで血迷ったと悪評が悪評を呼び、隊商は都市に寄り付かなくなるでしょう。いかに栄えていても、ここは砂漠。隊商に見捨てられた都市はすぐに瓦解し風化します。呆気なく」


 風に舞う砂が都市を覆う。

 壮麗なる凱旋門はひび割れ、立ち並ぶ列柱は倒れ伏し、優美にして豪奢な石造りの神殿群はもはや人々の祈りを神に捧げることなく沈黙する。

 うつくしき緑は、憩いの泉は、すべて幻想として砂に埋もれていく……。


「なるほど。臆せず話す女性ですね。あなたは何者?」


 イグニスの紺碧の瞳が、ひた、とライアの目鼻立ちのはっきりとしたうつくしい(かんばせ)に向けられた。

 背筋を伸ばして厳しい表情をしていたライアは、ふっと口元をほころばせた。


「こちらの偉そうな男の素性は聞かないようにしているのに、私には聞いて大丈夫なんですか?」


 途端、イグニスはぺちんと大仰な仕草で自分の額を手で叩く。


「ああー、それはそうだ。今のはなかったことに。私はいまだ運命の女性に巡り合えていないもので。気になる女性がいると口説きたくなるんです。どうです? 私とのこと、お考えいただけます?」


 早くも自分を売り込みはじめたイグニス。

 ライアが答えるより先に、アルザイが速やかに言った。


「だめだ」


 息を吸い込んでさらに言い募ろうとしたイグニスの肩を、部下という男がぽんぽん叩く。

 一方で、ライアはアルザイを見上げて言った。


「あなたにそんなことを言われる筋合いではないわ」

「それもそうだな。だが、だめなものは駄目だ。お前はこんな男に嫁いだら確実に苦労する」


 アルザイはライアをちらりとも見ずに言い捨てる。

 その言葉がにライアが示した反応を確認することもなく、イグニスに目を向けた。



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