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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋@12.8「僕にとって唯一の令嬢」アンソロ
【第四部】 隊商都市の明けない夜(前編)

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獲物(2)

 マズバル正規兵の黒装束に、首元には白い布を巻き付け、素顔は白日にさらした水も滴るとはかくやという美青年。

 すらりと剣を抜いて立ちはだかっている。


(元気そう)


 セリスは、懐かしさすら感じるアーネストの姿に口元をほころばせた。

 一方、少年はセリスを抱く腕にわずかに力を込めた。


「……なるほど。すごい美人」


 何やら得心がいったとでもいうような呟き。


(アーネストを知っている? やはりこの人はイクストゥーラから来ている……?)


 おそらく、セリスとアーネストの容姿や特徴を、誰かに聞いているのだ。誰かに。


「おろしてください」


 セリスの呼びかけに、少年は速やかにセリスをその場に下ろした。


「姫さま、そのままこちらへ」


 アーネストが、目を少年に向けたまま言った。

 セリスはごくりと唾を飲み込んで、少年を見上げる。

 黒い瞳がしずかにアーネストを見ていた。伏し目がちに見えるのは、睫毛が長いせい。下から見ればその瞳がひどく澄んでいるのがわかる。

 話す間にも、人馬やラクダが連なり包囲がなされていく。一触即発の、獰猛な気配。それは少年に対しての怒りに満ちていて、セリス誘拐を阻止するための善意だけとは、到底思われない。包囲を詰めてくる男たちの気配は、セリスにとっても脅威でしかない。


(これ以上囲まれたら、突破が難しくなる)


「アーネスト……」


(戦わないで)


 セリスは視線を向けて名を呼んだ。けれど言外に込めた思いなど、きっと通じない。アーネストの冴え渡った青の瞳は、少年を苛烈に睨み据えている。


「姫君は貰い受けます」


 少年は平淡な調子で言った。

 アーネストは違和感を覚えたように小首を傾げたが、少年の姿を上から下まで見つめて軽く首を振った。


「抜かせ。あのアホンダラが来るまでにカタつけたるわ」

「アホ……? 何?」


 少年が口の中で、呟く。


(もしかしなくても、たぶんそれはラムウィンドス)


 誰のことを指しているのか思い当たったセリスは、少年に対して小声で言った。


「すごく強い人が来ます」

「ああ。太陽王家」


 言いたい内容は通じたようで、少年が頷く。そして、手を伸ばすと、セリスの手をとった。


「おい」


 アーネストの低音の呼びかけなど聞こえていないかのように、少年はセリスを見つめて言った。


「姫様、そいつのこと好きなんだっけ?」


 捕まったセリスの手が、少年の手に弄ばれている。指の一本一本を絡めとるように手を合わせられたり、軽くひかれたり。

 セリスはそれを振り払おうとしたが、逆に強く握りしめられた。


「何を突然誰がそんなことを」


 まわらない舌でなんとか言えば、少年は不意に口元を覆っていた布をとった。

 その、顔。

 ()()()

 声を聞いたときと同じか、それ以上に強烈な感覚。眩暈に襲われる。

 知ってか知らずか、少年はすばやく言った。


「ゼファード様に聞いてる」


 次の瞬間には、セリスの手を強く引き寄せて、身体ごと捕らえて抱きしめている。


「エイヴロン!!」


 

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✼2024.9.13発売✼
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