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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第四部】 隊商都市の明けない夜(前編)
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橋の上(前編)

 アルザイがセリスとライアの二人を連れて向かった先は、日干し煉瓦と木材で組まれた六階建ての宿泊施設である。

 道路を挟んで同じような造りの建物が二棟あり、四階で道の上を渡すかたちで連絡橋がかけられていた。


「どちらかの建物が襲撃を受けても、上層階から橋を渡って逃げられるように、だな」


 アルザイは嘘とも本当ともとれぬ説明をして、連絡橋の上に二人を連れ出す。

 双方の出入り口に二人ずつ兵士の姿がある。アルザイは悠然とした態度を崩さず、その護衛を当然のものとしているからして、これが思い付きの遊びではなく「公認のお忍び」の線が濃厚であった。


「この道は野外劇場へと続いている。もうすぐ、橋の下を大規模隊商が通過する」


 眼下の道の両脇には人の姿が多数見受けられた。


「見世物、ですか……?」


 セリスが問うと、アルザイは視線を下に向けたまま、小さく笑った。


「姫は王宮にこもって噂話を気にすることもなかっただろうが、月からの道中で耳にすることくらいはあったんじゃないか。東国を発って、帝国へ向かっている、ここ数年なかった規模の隊商だ」

「確かに、商人の間で少しは噂になっていたのを耳にしていますが、実際に見た者と会ったわけではないので、気にしていませんでした。今日の到着なんですね」


 高い位置取りのおかげで、路上にいるより周辺の様子がよく見える。

 まっすぐ正面から左右には、凱旋門より続く高い列柱の並びが確認できた。それを過ぎると、市民の居住区や雑多な商店や小規模宿が軒を連ねるプラタナスの並木道となる。


「大きな町ですね。大きくて、豊かです……」


 呟いたセリスの背後で、ライアも溜息をもらして言った。


「飛ぶ鳥を落とす勢いとはよく言ったものね」


 聞きとがめたアルザイが、ちらりとライアに視線を流す。


「そのたとえはオレの前ではやめておくように」

「あら、黒()はそこを気にするのね。さすが予言のせいで妃を迎えそびれただけあって、迷信深いこと」


 ごく当然のようにやり返すライアに、セリスは「む」と眉を寄せた。

 アルザイにもライアにも親しみを覚えている身として、二人の浅く傷つけあうような会話には思うところもある。だが、その関係性を思えば簡単に「仲良くしてください」とも言えない。

 救いは、二人の会話が長く続かないことくらいだった。ライアは、たとえばアーネストとは延々と言い合いをしていた印象があるが、アルザイとはいつも二、三言で終話するのだ。


「東国からの隊商ですか……」


 セリスは橋の(へり)に手を置いて言った。

 その時、何か穏やかならぬ声が耳に届いた。


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