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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第四部】 隊商都市の明けない夜(前編)
124/266

──都市の外(1)──

 東の大国を発った、近年稀なる大きな隊商(キャラヴァン)がマズバルへ向かっているというのは、ずっと(せん)より周知の事実であった。


 もともと、オアシス都市間を行き来する隊商の規模に、大きなものはさほどない。


 河川に近い場所や豊富な地下水源をもつ土地には大きな都市もあるが、乾燥地帯であるこの地域は、常に水不足であるがために農耕地を限定されており、オアシスも草原や砂漠に点在するのみ。

 近年、小高い地盤に存在する地下水を地下の坑道によって平坦な地に引く地下水路技術が発達したことにより、新たに出現したわずかな水源の周りに人が集い、村や町ができてきた。

 とはいえ、依然として牧草地などは十分とは言えず、家畜の飼育もままならぬオアシスも多い。


 そうした都市では、生活必需品である畜産品の毛皮・油脂・肉・乳製品などは遊牧民との交換によって入手している。遊牧民もまた、いつも乳製品や肉だけを食べているわけではなく、穀物をはじめとした食糧や織物・木製品・金属器などの加工品はオアシス都市に依存しているという関係にある。


 こういった、日々の生活に関わる交換、交易においては遠路長大な物資の移動や大規模な隊商の必要性は低い。せいぜい隣接するオアシスかその周辺を行き来するオアシス内商人が物資を運ぶ、小規模な行商の範囲で日常の用は十分に足せるのである。


 一方で、扱う品が高級絹織物や貴金属、香辛料や香料などの奢侈品に比重がおかれるのが、ラクダと護衛を連ねて広範囲を移動する隊商(キャラヴァン)である。

 もちろん標的にもされやすいので、隊商を率いる指導者には注意深い行動が求められる。

 また、通り道のオアシス諸都市、ことに隊商交易都市を自認する大きなオアシス都市は隊商路の安全確保にも敏感だ。


 このとき、ラムウィンドスが向かっていたのは、まさにこの役目であった。

 すなわち、近場まで来ている大規模隊商を迎えてうまくマズバルに招き入れること。

 特にここ最近、小競り合い程度ながら隊商路で野盗による襲撃が相次いでいたので、商人や隊商、マズバルにも緊張が漂っていた。


「野盗の尻尾が掴めそうなら狩ってこい。示威行為をして息をひそめるならそれでも良し、まずは隊商を護衛して都市に導くこと」


 君主であるアルザイからの命令はこの程度であったが、ラムウィンドスは一度打って出た以上、手ぶらで帰るつもりはない。都市の近郊に伏せているものと当たりをつけ、かねてから探りを入れていた野党の一群に馬を駆って急襲に成功。その足で隊商に合流して、都市を目指していた。


 別段、一連の行動に落ち度は何もないと思われた。

 しかし、妙な胸騒ぎが消えない。


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