表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第四部】 隊商都市の明けない夜(前編)
118/266

痛み分けの女子会(2)

 ライアに割り当てられた部屋は、ライアが昨日訪れたアーネストの部屋と同じく、ほとんど物の無い粗末なものだった。

 王女とはいえ、砂漠の旅で野宿も経験していたので、文句を言うこともなかったが、光り輝くばかりの月の姫を招き入れて良いのかは躊躇した。

 しかし本人が何も気にしていない様子なので、絨毯をすすめてライア自身は寝台に腰をおろした。

 改めて向かい合って、しげしげとセリスの麗姿を見つめる。


「セリス……すごく綺麗ね。はじめから、堂々としていて変な度胸はあるなと思っていたけど、そうして装えばあなたの素性にも頷けるわ」


「ライア様こそ。今日もお綺麗です。本当は気安く話せる御方ではないと感じます。……僕のこの服装は、アルザイ様の遊びです。女装なんかして、誰かに見られたら良くないと思うんですが。髪も。わかる方にはわかってしまいますよね、月の人間だと」


 セリスは本気で困った顔をして、少しだけ視線を泳がせている。

 その悩まし気な横顔を見るとはなしに見ていたライアは、ふと思いついたことを口にした。


「それでも遊びに付き合っているのはどうして? アルザイ様がお喜びになるから? それとも、見せたい相手でもいるの?」

「え……」


 ライアの問いかけに、セリスは絶句して、色白の頬を赤く染めてしまった。

 予想外なほどに、目覚ましい反応だった。


「やだ、図星? 見せたい相手はアルザイ様、じゃないわよね? あら? ……え?」


 みるみる間に耳まで赤くして、口をぱくぱくと動かしてから、セリスはその場で身を乗り出して言った。


「あの……っ。そういうつもりではなかったんです。あのひと、今は街の外に仕事で出ていていないみたいなので! ばったり会うこともないと思います。でもなんていうか、僕は最近ろくに顔も洗わない、髪に櫛も通さないような姿ばかり見られていたみたいなので。あのひとは、几帳面でいつだって乱れていることなんかないのに。本当は僕だって、いまさら、こ、こういう女の人みたいな格好ちょっとやだなって思っていたんですが、いやでもたまには会いたいですし、見て欲しいだなんて……はぐっ」


 猛烈な早口の末に、最終的に舌を噛んだらしく、黙った。

 ライアはその様子を、まさしく呆気にとられて見てしまった。


(この綺麗なお姫様は、ひとりで、なんの話をしているの?)


 少なくとも、「見せたい」話題の相手はアーネストではないだろう。そもそもここ数日、そんな身なりに構わずだらしなく過ごしていたらしいセリスと、アーネストは顔を合わせてはいないはずだ。

 では……?


「あなた、まさかあの太陽の『野蛮人』に見てほしいの?」

「ライア様!!」


 立ち上がったセリスが、全力でそれ以上の言葉を阻止しようとしてきた。

 ライアは、セリスのこの動揺は普通ではないと思いつつ、どうにも解せずに重ねて言った。


「あの男のことが、好きなの? あの男って、ラムウィンドスという名のあの太陽の男のことよ」


 その名前を聞いた瞬間、セリスは慌てた様子で立ち上がろうとしたが、何もないのに妙なつまずき方をして絨毯の上にべしゃっと倒れた。なんとか腕をついて上半身を起こしたものの、ほぼ崩れ落ちた姿勢のまま、うなだれている。何やら悔しそうに唇を引き結んでいるが、顔は真っ赤のままだ。


「どこが良いの? たしかに謹厳そうだし端正な顔はしていたけれど、単純に美形でいえばアーネストに並ぶ人はいないと思うし……。アルザイ様もあなたにはものすごく甘いわよね。あ、そうよそんな恰好をさせるくらいだもの。アルザイ様から口説かれたりしていないの?」


 少々下衆いかなと思いつつ探りを入れると、セリスは顔を上げてキッと潤んだ目で睨んできた。


「アルザイ様はたまにそういうこと言いますけど、からかっているだけです。昨日も飲みながら、自分たちは男だ女だと言っていましたが、最終的には枕ですよ」

「枕?」


 ごく単純に、単語のみの説明が理解の範疇を越えていたので、聞き返した。


「枕です。僕を枕替わりにして寝てしまいました」

「つまり、アルザイ様と寝所をともにしたと?」

「お酒を召し上がってらして、酔っ払って乗ってきて。重くてどかせられなかったからそのまま僕も寝ました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
✼2024.9.13発売✼
i879191
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ