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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第四部】 隊商都市の明けない夜(前編)
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痛み分けの女子会(1)

 神殿内の空気が変わった。

 何か異質な者の訪れた気配に、緊張が走った。

 祭壇の間に至る柱廊を歩いていたライアは、その気配を確かに感じ取って視線をすべらせた。


 入口に立ったのは背の高い男と、ほっそりとした華奢な人影。外からの陽ざしがまぶしく、目を細める。

 男の顔には見覚えがあった。そもそも、あんな恵まれた体躯に、光を背負ったような派手な男がそうそういるとは思えない。

 今一人は。

 頭布から頬の横に落ちた銀髪は短いが、面差しは乙女のそれだ。夢見る少女のようなまなざしに、通った鼻梁、小さな唇。


(どこかで見たような……)


 考えて、思い当たって、手で口元をおさえてしまった。

 それから、足早に歩み寄る。


「ライア様!」


 向かってきた相手から、先に声をかけられた。聞き覚えのある、涼やかな響き。

 全開の笑顔。手をぶんぶんと振りながら駆け寄って来る。

 周りにいた神殿の参拝客や神官たちの視線が集中しているのを感じて、ライアは相手の名を口にするのを控えた。

 息を止めて見つめてしまったせいでもある。 

 全体的に白を基調にした服装のせいか、発光しているのかと目が錯覚した。


「良かった、お会いしたかったです。お元気でしたか?」


 間近でとろけるような笑みを向けられて、ライアは膝から力が抜けるような、全身が強張るような相反する感覚を覚えた。


「ええ……。あなたも……。少し痩せたかしら」


 服装が、明らかに女装のように見えることに、触れて良いのだろうか。

 薄くではあるが化粧をしているせいか、印象がまったく違う。少年のなりをしていたときも、顔だちは綺麗だとは思っていたが──


「俺は少し用事を済ませてくるから。また後でな」


 距離を置いたまま、ライアには近寄らずに男の方はそう言い置き、神殿の奥へと大股で進んで行った。

 一瞬だけ視線が合った気もしたが、気のせいだろう。男が声をかけたのは、ライアではなくあくまで自分の連れに対してだ。

 連れ──月の姫、セリス。


「アーネストもどこかにいるんですよね。会いたいな」


 セリスは辺りを軽く見回す仕草をして、何気ない調子で言う。

 その名を聞いたライアはそっと横を向いて顔を逸らしてしまった。


「……ライア様?」


(どうして今日のセリスは、こんなに目敏く気付いてしまうの)


「アーネストは毎日、僧兵と鍛錬にはげんでいるみたい。普段、そんなに顔を合わせるわけじゃないの」

「ライア様、いま僕から目を逸らしましたよね。アーネストと喧嘩でもしました?」


 食い下がってきた。

 ライアが唇を噛みしめながら、うらめしい気持ちで上目遣いにうかがうと、恐ろしく綺麗な翡翠の瞳に覗き込まれた。


「喧嘩というか……。怒られたの。アーネストに」


 肝心の「抱いてほしいと言ったので」という事情を省きつつ打ち明けると、セリスには「ああ」と得心したように頷かれてしまう。


「アーネストは普段から少し喧嘩腰といいますか、怒ってるような話し方をするときがありますが。……そういうことではなくて? ん? でもライア様もそれはご存知ですよね。そうではなく、何か本格的に喧嘩でもしましたか?」

「あなた、なんでこういう時だけ鋭いの」


(どこまで何を言うべきなのか)


 このままでは、遠からず「喧嘩の原因」まで突き止められそうな気がする。

 悩んだ末に、ライアは「立ち話もなんだから」と、セリスを自室へと誘った。


        

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