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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第四部】 隊商都市の明けない夜(前編)
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甘い薔薇(4)

「そうだな。俺は姫に『自分ではない何か』になる夢を見させてやることはできる。だが、いざという時にはお前は月の姫だし、俺はそれを利用するだろう」


 盃を絨毯に置き、アルザイは立ち上がると距離を詰めて、セリスと膝が触れ合うほどの近くに座り直した。


「食が進んでいないようだ。俺が食べさせてやろう」

「畏れ多いです。やめてください、一人で食べられます」


 盆に視線をすべらせて、適当につまめるものと薔薇の砂糖漬けに手を伸ばす。先にアルザイの手が届いて、指先にひとつまみ掴むとセリスの顔の前に運んできた。


「口を開けろ」

「嫌です」

「断るのか」


 面白そうに言われて、完全に遊ばれていると思いながら、セリスは唇を閉ざす。

 そのまま、本当に何気なくちらりと戸口の方へと目を向けた。


「ラムウィンドスはいないぞ。隊商路の野盗討伐に出している。別にあいつを出す必要もなかったが、少し気になることがあってな」


 心を見透かしたような物言いに、セリスは失敗を悟った。ラムウィンドスのことは、気にしていないように振る舞っていたつもりだった。話題に上らせないように、うまくやっていたつもりだったのに。


(これ以上ここで、あのひとの名前を出されるわけには)


「明日も早いので、そろそろ辞させていただきます」


 立ち上がろうと床に手をついたらアルザイに手を重ねられた。


「明日。お前に仕事はない。皆に、休みを出した。聞いていただろう」 


 近い。

 距離が近すぎる。

 さして力を込めているようにも見えないのに、おさえられた左手は全く動かせない。


「アルザイ様。お酒が過ぎたのではないですか」

「問題ないな。姫、俺を見ろ」


 視線を感じる。

 ちらりと目を向けると、これまで見たこともないくらいに、甘く微笑みかけられた。

 見てはいけなかった、と悟った。

 話を逸らさなければ。


(この空気は、なんだかまずい)


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