2話 パンフレット
もう少しでお昼になりそうな時間。
合格発表からは少しばかりしか時間は経ってない。
小さな家の二階の部屋で女の子が制服姿でベットの上で頭を下げて泣いていた。
走って逃げてきたせいか少し息も荒くなっている。
「どうして……どうしてこうなったのよ。点数だってある程度は取れてたはずだし、部活動の成績だってそこらへんの人に比べればレベルが高いはず。あのベスト4の人たちを抜かし……」
ここで若葉の脳内に受験の時の記憶が稲妻のごとく走った。
「……何故うちが落ちたか大体予想ついたよ。だって自分入れてのベスト4のメンツ受験会場に四天王が揃ってるかのようにいたよね。その中で私はおそらく最弱……四天王の中でも最弱なんて入れるわけない……か」
諦めが早いようだが若葉の表情にはまだ涙があり、よっぽど悔しいのが私天の声にも伝わってくる。
だが過ぎたことは後戻りすることはできない。
若葉は次の行動に素早く取り掛かった。
「あーあ、これからどーしよっかなー」
辛い気持ちを紛らわすように大きな独り言を言いゲーム機を手にとった。
まあ、世で言うところの現実逃避だろう。
若葉がベットの上で横になり体操座りのように丸まっていると階段からドシドシと言う足音が聞こえて来た。
「この足音は父さん……仕事のはずじゃ!? 受験落ちた娘がベットの上で転がり込み恋愛ゲームをやっているところを見られたら流石に怒られるだろう。早く次の道を探しているふりをしなければ」
ゲーム機を布団の中にしまい込むと若葉は机につき座った。
一見真剣そうに勉強しているかのように見えるが机の上はゲームの攻略本、漫画、DLだらけ、誰がどう見ても真面目に勉強したり考えているようには見えないだろう。
そして階段の足音が止み部屋の扉が開く。
すると目の前に居たのは……
「龍焚? 何であんたがうちの家に来てしかも上がってるのよ、玄関からすぐに居なくなったうちを見てその家に来るとか普通の人のすることじゃないわよ。狂人だから分からないと思うけど」
「狂人って僕にだって普通の心あるよ! だからここに来たんだ、では話すね、言っちゃ悪いけど若葉さんが落ちたことは分かっている。でも聞いてくれ、僕も落ちたんだ冗談抜きでだよ」
若葉の目の前で正座をし真面目に言って来た。
「……落ちたもの同士一緒に慰め合おうとかそう言う系? それだったらうち一人の方いいから帰ってもらえるかな?」
そっぽを向いて若葉が言う。
それを聞いた龍焚は首をふりカバンから一枚の紙を取り出し若葉に渡した。
「僕が言うのもなんだけどさ、次受ける学校に悩んでいるんだったらここをお勧めするよ。ちなみに僕は滑り込みで受けてもう合格してるけど」
若葉に渡された紙にはこう書いていた。
・青春高校入学者募集!
・定員80名
・良いところに進学、就職したい生徒誰でも歓迎!
・この学校は国立学校です。怪しくはありません
「ねえ、最後の国立学校ですってところ見ると妙に怪しく感じるのはうちだけかな? あと80名でまだ満員になってないとか人気なさすぎじゃない?」
「べ、別に怪しくないよ! ちゃんと僕だって試験受けたし。そして何故満員になってないかと言うとこの学校今年から募集開始したばっかり有名じゃないからかな?」
バックからパンフレットを取り出し若葉に見せつける。
「分かった、分かったって。検討して見るからそのパンフレット貸しなさいよ」
龍焚は卒業証書を渡すように両手で持って若葉にしっかり渡した。
細かい動きがほんとにうざい。
「えーと、気になるところはー全寮制、国内初の青春力実施学校ってぐらいね……全寮制は分かるけど青春力ってなに?」
「それね、詳しくは僕にも分からないけど学校の成績に青春力ってものがあるらしいぞってやつだね。学校の成績にどれぐらい青春してるかを加えるなんて僕にも予想つかないよ」
この時点で若葉の頭の中にはハテナマークがいっぱいだ。頭の上にはひよこまで飛んでいる。
「う、うん……よく分からないけど取り敢えずその学校は青春してれば点数をもらえるのね。それだったら実にうちの向きの学校じゃないか! なんか入りたくなって来たようなー」
この女まさかこれまで自分が青春して来たと思っていて言っているのか? 確かに部活動ではある程度青春してたと思うが学校生活では授業中常に爆睡で、起きていると思ったら漫画やDLを読んでいるやばいやつだぞ。
おまけに日常生活でも部活動がなければ常に家でグータラし引きこもる生活を送っていて友達など数えるほどしかいない。
そんな奴が青春してると思うか!? これから出来ると思うか!? 天の声の私でもできると思わないぞ!
「うんうん、若葉さんなら入りたいと言うってくれると思ったよ。さてと僕は行くね、人々の助けが聞こえるからっ!」
龍焚はイケメンがするウィンクをすると駆け足でその場を後にした。
こいつ若葉の細かい性格までは予想してないよな……この学校適正じゃないのに。
「最後の最後までうざかったわーまあ龍焚があそこまで押さなくても周辺の学校は定員満員だしここに入るしかなかったけどね。さてと母さんにでもいいに行くか」
表には出していないが若葉は今すごく龍焚に感謝している。
教えてくればければ分からなかったからだろう。
若葉は椅子から立つとゆっくり階段に向かって歩き出した。
「ん? 誰かと話してなかったの? 騒がしいと思って来たんだけど誰もいない。あー可哀想に受験に落ちたショックで一人で会話してたのね……母さんには分かるわ」
階段ですれ違った母さんに急に言われた若葉は考えた。
世間から見ると今うちは全力で独り言をしていた痛い子だろうと。
「あの野郎っ! 助けも呼んでないのに勝手に女子の部屋に上がってくるとかただの変態じゃないか!」
「あの野郎って、若葉受験落ちたのに勝手に男の子連れ込んでたの!?」
「今のうちの発言どう聞けばそうなるのよ、母さんは何も分からなそうだから一から話すと話すけどさっきうちは……」
若葉はまるで熟読したDL『ゆうきくん⭐︎!』を母さんに朗読するように今あった出来事を話した。
「それって実話?」
「実話だよっ! ほらちゃんと見て! 青春高校のパンフレット」
自分が好きな挿絵を見せつけるかのように母さんに顔面に押し付ける。
「ひえええ!?」
「ねえ聞いて! 私ここ青春高校に入りたいっ!」
こうして若葉の青春高校入学への一歩が開かれた。
もう少しで登場人物紹介を出す予定です。