2,道標
「それでは皆、とりあえず席に着いてくれ」
セバスチャンに案内された先にあったのは、日本でいう教室と呼ぶべき所であった。
思わぬ瞬間に見慣れた光景を見ることができ、日向のみならず全員が少し安堵したことだろう。
「まず自己紹介をしよう。俺はルキア、王都騎士団の団長の務める者だ。これから指導をしていくわけだから、堅苦しい言葉はやめるぜ。お前ら、よろしくな」
団長だけならず、クラス全員の自己紹介が始まる。日向にとって自己紹介はもっとも苦手な恒例行事と言っても過言ではない。学年が変わるごとに、最初の授業で訪れるそれはもはや地獄と呼んでもいい。
名前、部活、好きな食べ物など、そして最後に一言。地味な挨拶をしても印象が悪いし、ウケを狙いに行くのもリスクが大きい。スベれば終わり、ウケれば1年間の安寧が待っている。たまにスベった空気で笑いをとる者もいるが、それは既にその人が面白い人物であると、周囲の認知によって成されるだけであって、地味を貫いてきたものがスベッたのなら、それはもはやただのスベリであるのだ。
「聖川蒼也と言います。歳は十七、好きな食べ物はボルシチです。この世界を救うために、全力を尽くしたいと思う!!それではルキアさん、これからよろしくお願いします」
どうやら、聖川はウケを狙いに行くタイプではなく、真面目な路線で攻めるらしい。聞いていて自分が言ったなら恥ずかしいと思うような言葉でも、聖川にかかれば、それは皆を奮起させるカリスマの言葉となる。
生まれ持った才能とは、このことを言うのだろう。
「龍崎翼だ。十七歳、好きなことはボクシング。なんかすげえことになってるけど、俺にはよくわかんねえ。だからまあ、聖川について行く!そんでちゃちゃっと世界救うぜ!」
楽観的すぎるのではないかと思うほど飄々とした挨拶をしたのは、龍崎翼。聖川の幼なじみで親友だ。
日向に敵意を抱いている聖川とは相対して、彼は非常に好意的に接している。直感で悪いと思わない人には等しく接するというのがポリシーらしい。
その後も長らく自己紹介は続き、遂に全員がその地獄の時間を終わらせた。ちなみに日向は、目立たないレベルで冗談を交えながら、最後にはよろしくとつける無難な挨拶をした。
「それじゃお前達全員に、この魔道具を渡す。これは各々のステータスを見ることができる。それに触れながらオープン、と叫べば問題ない」
次々とオープンという声が出る中、日向も多少ウキウキしながらオープンと唱えた。
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氏名:雨宮 日向
種族:人族
称号:転移者
命職:魔法使い
レベル:1
体力:50[G]
魔力:50[G]
筋力:20[G]
耐久:20[G]
敏捷:20[G]
器用:20[G]
スキル:言語理解,鑑定,成長超極小促進
魔法:
清浄[Lv.1]
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その結果に、日向は思わずおお!と唸ってしまう。
命職…というのは、神より賜りし職で、一生それを変えることができないという。レベルは功績を成す事によって上がる。簡単にいえば、魔物を倒したりすればいいらしい。
そして基礎能力は、レベルの上昇で上がり、これが高ければ高いほど強い。スキルは生まれながらに持ったものもあれば、成長の過程の中で取得したりと様々であるため、今なくても気にしなくていいらしい。
魔法は、ある程度その魔法が使えるようになればこのステータスに載るのだそう。
ちなみに、一度このステータスを発言すれば、ステータスボードがなくともオープンと言えばステータスの確認ができる。
日向は取り敢えず鑑定を使い、【成長超極小促進】を見てみた。使ってみるのは初めてだったが、上手くいったようだ。
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成長超極小促進……成長速度を0.01倍のみ上昇させる。
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いやひっく!?上昇率ひっく!!
この鑑定結果は、日向の夢を壊すには充分だった。0.01倍だけの上昇率ならば、ほぼ普通の人と変わらないだろう。
そして、ステータスをみて興奮したのは、日向だけではないらしい。普段はおとなしい委員長タイプの女の子ですら目を見開いているくらいだ。
「これが俺の……」
「蒼也。お前のステータスを見せてくれないか?」
「え、はい、いいですが…どうすれば?」
「ああっと、ステータスウィンドウ、と言えばいい」
「わかりました……ステータスウィンドウ!」
そう聖川が言った途端、皆の前にステータスが開示された。
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氏名:聖川蒼也
種族:人族
称号:転移者、勇者
命職:聖勇者
レベル:1
体力:500[B]
魔力:500[B]
筋力:100[B]
耐久:100[B]
敏捷:100[B]
器用:100[B]
スキル:言語理解,鑑定,瞬足,闘気,聖なる波動,聖との調和,限界突破
魔法:
聖魔法[Lv.5]
炎魔法[Lv.5]
水魔法[Lv.5]
氷魔法[Lv.5]
風魔法[Lv.5]
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「……!?」
「うおっすげぇな聖川!俺より魔法多いしスキルも強そう!」
「流石だな蒼也!」
数々の賞賛の声があがる。誰も嫉妬してないのは、聖川がそのステータスたる人物であるという事実があるからだ。
その傍、日向は驚愕を隠せない。同じ転移者なのにここまで能力に差が出るとは、と。
スキルなんて一致しているのは言語理解と鑑定のみ。自分には成長促進というチート系小説ではお馴染みの物があるか、効果は超極小。理不尽の極みだ、と日向は項垂れる。
「おい雨宮!お前のステータスも見せろよ!」
「え、えっと…」
「いいから見せろよおら!」
「うっ…す、ステータスウィンドウ!」
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氏名:雨宮 日向
種族:人族
称号:転生者
命職:魔法使い
レベル:1
体力:50[G]
魔力:50[G]
筋力:20[G]
耐久:20[G]
敏捷:20[G]
器用:20[G]
スキル:言語理解,鑑定,成長超極小促進
魔法:
清浄[Lv.1]
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皆の前に晒された瞬間、ドッと笑いが巻き起こる。
「うはははは!!こいつまじで弱ぇ!!」
「なにこれ!?クソじゃねえ!?」
「ルキアさん、この世界で俺たちのステータスはどれくらいすごいんですか?」
「そ、そうだな…子供が大体全5ほど、一般の大人で20だな。つまりあれだ、雨宮くんは一般男性とほぼ同じで、違うのはスキルくらいだな」
日向は、それを聞いて確信する。
(いや、これまじで僕役立たずぅ!?)
「おい雨宮…いや、これからは役立たずだな」
「だな!役立たず!早くこの醜いステータス閉じろよ!」
「ほんっと使えねー」
「よ、よし、じゃあまず訓練を開始しよう。全員中庭の方まで移動するぞ!」
『はい!』
日向へ侮蔑の込められた罵倒が飛び交う。見下す視線も多いが、それをルキア団長が断ち切るように指示を出す。おそらく気を使ってくれたのだろう。
ゾロゾロと教室を出ていく中のほぼ全員が、可愛そうな人を見る目で見てきたが、日向は力なく足元を見つめるだけなので気づかなかった。
考えること三分。
日向は持ち前の冷静さを取り戻し、今後の方針を決める。
「よし。この成長超極小促進も進化する可能性あるし、とりあえず訓練頑張ろう」
どこまでもポジティブな、雨宮日向であった。
遅れましたぁぁあ。そして遅れたというのに話はほぼ進まないという。
そろそろ不定期更新加えますかな…
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