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第41話:地下牢の攻防

 フォルティス城の片隅、その地下に存在する地下大牢。

 フォルティス城が魔王によって占拠されるより以前に作成されたとされるこの牢屋は、地下に埋められているものにしてはかなりの規模を誇る。

 それは、収容者の人数ばかりではない。壁は元より、天井、床、全ての面に鉄板が埋め込まれているのだ。

 これは、壁や床、果ては天井を掘りぬいて脱走する者のための対策なのだろうが、それでも大規模な牢獄の全方位全てに鉄板を埋め込むとなると、かなり大掛かりな施工が必要になるし、そもそも掘り抜かれないために十分な厚さを確保するとなると、莫大な量の鉄が必要となる。

 それだけの資材を確保できた辺り、フォルティス・グランダムの前身となった国は、かなりの規模と裕福さを誇っていたのだろう。……同時に、これだけの規模の収容施設を要するだけの、犯罪者もいたのだろう。

 国が裕福であるということは、それだけ人が暮らすことができるということであり、それだけ犯罪者の隠れ蓑が大きいということだ。

 貧しい国の方が犯罪者は多いとされるが、実際のところ裕福な国であったとしても、貧しい国との犯罪者の比率に大きな差異はないだろう。単に犯罪の性質が異なるだけであり、人がいるというだけでそこに犯罪者は現れるのだから。

 だが、この地下牢を作った国はすでになく、その後にやって来たフォルティス・グランダムも間もなく滅びようとしていた。

 地下大牢のど真ん中に座している、剛斧を携えた邪戦士、ラウムとその仲間たちの手によって。


「………」


 腕組みをし、地下牢の中にあった木の椅子に腰掛けたラウムは、まんじりともせずジッとしていた。

 瞳も閉じ、顔も伏せた彼の姿は眠っているようであり、また何かを待っているようでもあった。

 地下牢の中を徘徊していた、グレータースケルトンのうち二体が、ラウムの周りを警護するように回っている。

 すでに皆疲労しきってしまっており、静まり返る地下牢の中、ギリギリラウムが見える位置に捕らえられていたフランは、身動き一つしないラウムを睨みつけながら、首を傾げる。


「……何をして……いえ、何故今ここにいるのかしら……?」


 今まで、この地下牢の監視はずっとグレータースケルトンが担ってきた。彼らの動きは俊敏で、その耐久力は鋼の如し。イデアも使えず、武器すら所持していない人間ごときが敵う相手ではない。

 実際、何度か牢を飛び出す事に成功していたダトルではあるが、グレータースケルトンにはかすり傷の一つすら負わせる事が出来ず、牢に投げ入れられるたびに全身を打ち据えられたせいで、今は静かに牢の中に横たわっている。いや、気絶しているというべきか?

 いずれにせよ、グレータースケルトンの存在は、牢の中に捕らわれた勇者候補生たちや、フォルテキス騎士団の者たちの心を折るには十分であった。

 さらに、騎士団たちの何名かはすでに殺されてしまっている。突然現れた小柄な少年――バグズの手によって、謎の虫の素として、その肉体を使われてしまった。

 そのとき、騎士の者たちが上げた断末魔を思い出し、フランは体を震わせる。

 こちらの威圧効果は、グレータースケルトンの存在よりも、バグズが行ったおぞましい拷問の方がよほど高かった。下手に外に出て、あの少年に見つかったら……と考えるだけで足がすくんでしまう。

 グレータースケルトン。そして、バグズの行った拷問。この二つだけで、フランたちの身柄はこの地下牢に釘付けにされてしまっていた。

 それは、恐らく向こうも理解しているのではないだろうか? だからこそ、この地下牢を使用し始めてからずっと、グレータースケルトンが監視役であったし、誰かがこちらの様子を見に来ることもなかった。

 グレータースケルトンに絶対の信と自信を置いている……というよりは、こちらがそうできないという確信を持っているというべきだろうか? フランに奴らの考えなどわかりはしないが、それでもこちらを舐めているという事だけは伝わっていた。……同時に、連中の考えている通りに動くことができない自分の無力が恨めしかった。

 非力の自覚はあったが、それでも父から伝えられた魔法に自信はあった。百戦錬磨のゲンジに通じないのは仕方ないとしても、スケルトンごときには負けないだけの自信があった。


「………ああ、くそ」


 だが、それもスケルトンの上位種が現れるまでであった。自慢のバニッシュもあれには通用しない。一体どうやって倒したらいいのかすらわからない。

 こんな未熟な自分が恨めしくて、少しでも自分を変えたくて。

 父母に無理を言って、フォルティスカレッジまでやってきたのに、結局自分を変えられない。

 フランは、呪った。弱い自分を。

 強きに立ち向かう勇気さえ持てない、弱い弱い自分を。

 と、その時だ。

 どこか遠くで、錠前の外れる音がした。


「――え?」


 フランは顔を上げる。

 今までも何回か聞いたような音だが、少し距離が遠く、その音の質もどこか違って聞こえた。

 なんというか……牢の鍵を開けるにしては、音が軽いような気がした。

 まるで、木製の木戸に据えられた鍵を開けたときのような、そんな気軽な音だった。


「………フ」


 その音が聞こえるのと同時に、ずっと動かなかったラウムが小さく笑った。

 その笑い声はフランの元とまで聞こえた。地下牢の中が静まり返っていたからだろうか。聞こえてきたその笑い声は、ずっと待ち望んでいたものがやって来た喜びを表しているかのようだった。


「―――」


 錠前の外れる音がして、しばらく。

 何も、起きなかった。

 静寂は相変わらず地下牢の中を支配し、グレータースケルトン以外に動くものなどどこにもいない。

 それは、ラウムも同じであった。腕を組んだまま、悲鳴を上げている椅子に座り、ジッと動かずにいる。

 だが、閉じられていた瞳は開かれ、顔を上げてじっと正面を見つめていた。

 何かを、見つめている。フランにも、それがわかった。見ているのが一体何なのかは、わからなかったが。

 ラウムが見つめている方へグレータースケルトンも注意が引かれたのか、その体を引きずりながら一歩前に出た。

 瞬間。ラウムの右側にいたグレータースケルトンの上半身が砕け散った。


「っ!?」


 真上から何か強い衝撃が加わったようだ。地面に叩きつけられたグレータースケルトンの体は、何か核のようなものが破壊されたのか乾いた音を立てて砕け散った。

 さらに、ラウムの左側のグレータースケルトンも、同様に砕け散る。


「え、なんでっ!?」


 瞬く間に、二体のグレータースケルトンが粉砕された。バニッシュが通用しなかった骨の怪物の、あまりにもあっけない最後にフランは開いた口が塞がらない。

 だが、驚くのはまだ早かった。

 自身の傍に控えていた二体のグレータースケルトンの敗北。それを前にしても、ラウムは不敵な笑みを絶やさず、ついにその手に剛斧を握りしめ。


「シィィィィィィィィィ!!!」


 鋭い呼気と共に、剛斧を真上へと振るった。

 すると、その刃の先に紅いマフラーをした一人の少年の姿が現れた。

 辺りに響く金属音。衝撃が弾けたようにさえ見えたぶつかり合いは、ほんの一瞬のこと。


「―――ェェエエエイィィィィィィィィ!!!」


 ラウムは、剛斧を振るい、少年の体を勢い良く弾き飛ばした。

 その流れに逆らわず吹き飛ばされた少年は、フランのいる牢のすぐ傍へと弾き飛ばされる。

 少年は体を捻り、空中で姿勢を正し、鉄格子へと着地するように足を叩き付けた。


「きゃあっ!?」


 鉄の拉げる激しい轟音と共にやって来た少年は、拉げた鉄格子から無理やり足を引き抜きながら、牢の地下へと着地する。

 その衝撃に一瞬瞳を閉じたフランは、恐る恐るその目を開けたとき、信じられない者を見る。


「あ――!? 貴方は!?」


 口元に紅いマフラーを巻き、果敢にもラウムへと挑んだ少年……それは、昨日から行方が知れなかったトビィ・ラビットテールだったのだ。

 昨日に見た、気弱げな少年はすっかり変わり、鋭い眼差しでラウムを睨みつけると、フランには一瞥もくれずにその傍へと跳んでいった。


「な……なんで!? どうして、貴方が……!?」


 わけがわからず、フランは叫ぶ。まるで、人が変わったようだ。フランも一瞬、自分のみ間違いかと考える。

 だが、それを考える暇はなさそうだ。しばらく自身の斧を検分していたラウムが、ニヤリと笑いながら自身の傍に着地した少年――トビィの方へと向き直り、力強く剛斧を構えたのだ。

 トビィとラウム……。二人の戦いの火蓋が、まさに切って落とされたのだ。




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