表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/87

第12話:戦端

 警鐘が鳴り響く、しばらく前。

 退屈な西部方面の城壁外警戒任務に当たっていた、衛兵の一人が大欠伸をかいた。


「くぁ……っ。今日も平和だねぇ……」


 フォルティス・グランダムの王都には、全部で六棟の見張り塔が存在する。王都周辺をしっかりと警戒範囲に入れられるよう、隣り合っている見張り塔同士でお互いの警戒範囲をカバーできるように設計されている。もちろん、100%御互いの警戒範囲を補い合えるわけではないが、一棟の見落とし事故は防げるようになっている。

 そして見張り塔同士は、伝声石と呼ばれる、魔法道具によって連絡が取り合えるようになっているのだが、その伝声石が急になり始めた。


「ん……?」


 かいた欠伸を飲み込んで、衛兵はやかましく鳴っている伝声石を軽く弾いた。


「もしもしー? どうしたんだよいきなり」

『いや、西側になんか砂煙のようなものが見えるんだ。わかるか?』

「砂煙?」


 同僚の言葉に眉根を寄せた衛兵は、不審そうに見張り塔から乗り出して西側に目を凝らす。

 フォルティス・グランダムの周辺はちらほら遠方に森が見える程度で平地が続いており、見通しが大変よろしい。

 そのため地平線までよく見えるのだが……言われてみれば、西側の地平線付近になにやら煙が上がっているように見える。


「……なんかあるように見えるな」

『だろ? お前、望遠鏡持ってきてないか? 今日、うっかり家に忘れてきちまって……』

「物見台勤務で望遠鏡忘れんなよ……ったく」


 兵長に聞かれれば処罰ものであろう同僚の言葉に舌打ちしながら、衛兵は望遠鏡を伸ばして西の地平のほうへと向ける。


「んー……?」


 軽く望遠鏡を回しながら、地平線の向こう側にピントを合わせ、目を凝らした衛兵は、その向こう側に何がいるのかを察する。


「……っ!?」


 それは、巨大なワームと、スケルトンの姿。

 先頭を行くワームが、進行方向上にあるあらゆるものをなぎ倒し、そうしてまっ平らになった大地を夥しい量のスケルトンたちが続いている。進行方向は……フォルティス・グランダムであるようだ。

 森の木々がなぎ倒され、地肌を曝す地面を進む化け物軍団を見て、衛兵は叫び声を上げる。


「ワームにスケルトン……!? 化け物の混成部隊がこっちに向かってきてんぞ!?」

『なにぃ!? 部隊って……指揮官は!?』

「わかんねぇよ、例えだっつーの! ともかく、こっちに向かってきてるぞ!!」


 望遠鏡から目を離した衛兵は、素早く下にある詰め所に繋がっている伝声石を乱暴に弾く。


拡声(メガホン)ッ! 王都西部より、スケルトンとワームの混成部隊が接近! 至急、確認を求むッ!」


 相手側の受信確認を待たない、一方的な通信手段である拡声(メガホン)により、衛兵の言葉は詰め所へと正確に伝わる。

 瞬間、そのときまでダラダラとそれぞれの席でだらけていた衛兵たちは、弾かれたように立ち上がりそれぞれの持ち場へと動き始める。


「ワームとスケルトンがこちらにきているだと!?」

「至急、偵察の鳥を飛ばせ!」

「自然発生の災害でしょうか!?」

「ワームはともかく、スケルトンが群れを成すわけないだろう!」


 自身の鎧と武器を手に、詰め所を飛び出した衛兵たちを見送り、何名かの魔導師がそれぞれの使い魔である鳥を空へと飛ばす。


共有(リンク)! 頼むよ!」


 自身と視界を共有した魔導師たちの指示で、一斉に飛び上がる使い魔たち。

 そのまま一気に城壁を飛び越え、一直線にワームとスケルトンの群れへと向かって飛翔する使い魔たちは、程なくその大群をそれぞれの視界に捉える。


「これは……!」


 ワームは先頭を行く数匹のみであるが、その体長はフォルティス・グランダムの城壁などあっさりと上回ってしまうほどだ。


「なんて大きさなんだ……! 城壁を叩き壊せる規模のワームが三匹も……!」

「ああ……! スケルトンの数もまずいぞ……!」


 スケルトンたちの数は、もはや数を数えることすら億劫なほどだ。使い魔の視界を通して確認できる限り、地平の向こう側にまでスケルトンの列が及んでいるように見える。


「確認できる範囲でこれか……! 一千……いや、それ以上はいるぞ!」

「一体何があってこんな……! ともあれ、使い魔たちを――」


 簡単な偵察を終え、魔導師たちは己の使い魔たちに帰還の命を出そうとする。

 だが、それは叶わなかった。

 共有した感覚を通じ思念を送ろうとした瞬間、魔導師たちの全身に激痛が襲いかかってきたのだ。


「「「ぐ、がぁぁぁぁ!?」」」

「っ!? どうした!?」


 魔導師たちの警護のために残っていた衛兵の一人が、突然悲鳴を上げた魔導師たちに駆け寄る。

 そのままもんどりを打って倒れてしまった魔導師の一人を抱き起こし、必死にその体を揺さぶる。


「おい、大丈夫か!? なにがあった!?」

「や、やられた……!」

「なに!?」

「使い魔を……! 殺された! ワームとスケルトンだけじゃない……! 魔導師がいるはずだ……!」

「体を……爆破されたような感覚……! 弓矢の類じゃない……!」


 他の魔導師たちも息絶え絶えといった様子で報告してくれる。

 ――視界を共有するために使用した共有(リンク)と言う魔法。使い魔を利用した情報収集に非常に優秀な魔法なのだが、唯一にして最大の欠点が“使い魔とあらゆる感覚を共有してしまう”ことであった。

 あらゆる感覚を、一定以上共有してしまうゆえ、このように使い魔側を何らかの方法で殺されてしまうと、魔導師側にも一定以上のダメージが入ってしまうのだ。

 共有するのは感覚だけであるため、爆裂四散してしまうと言うようなことはないが、それでも彼らはしばらく起き上がることも出来ないだろう。

 衛兵たちは魔導師たちを詰め所内のベッドまで運ぶと、彼らに強く頷いてみせる。


「ああ、わかった! あとは、俺たちに任せてくれ!」

「すまない……!」


 申し訳なさそうに呟く魔導師たちの手を力強く握ってやったあと、衛兵たちは詰め所を飛び出してゆく。


「俺は兵長に報告してくる!」

「俺は警鐘を!」

「ああ、頼んだぞ!!」


 一人の衛兵が警鐘を鳴らすべく、王都の中心に向かって駆け出したのを見送ってから、他の衛兵たちは、城壁の最前線へと向かった兵長の後を追った。

 詰め所から少しいった場所に設置されている、緊急用のはしごを掴み、一気にそれを駆け上がってゆく衛兵たち。中の階段は、こうした有事の際には閉鎖される。万が一、敵が城壁に登ってきた際、利用されるのを防ぐためだ。緊急用のはしごは縄で出来ているため、最悪の場合は即座にはずしてしまえば敵に利用されずに済む。

 衛兵たちは城壁の最上部まで登り切る。

 見張り塔を結ぶ、王都防衛の最前線となる城壁最上部は着々と防衛線の準備を行っていた。

 階段を封鎖する前に見張り塔より運び込まれた大砲を並べ、砲弾を積み上げてゆく。

 下の方を覗き込めば、矢を打つための覗き窓には弓兵が並んでいるのが見えただろう。

 魔導師たちの集めた情報を携えた衛兵たちは、絶えず指示を飛ばす兵長の下へと駆け寄り敬礼の姿勢をとる。


「兵長っ! 魔導師偵察隊より報告であります!」

「うむっ! 報告せよ!」


 兵長の許可を得て、衛兵たちは報告をそれぞれに口にする」


「相手側の戦力、ワーム3! スケルトン1000超! そして、数は不明ですが魔導師を確認!」

「魔導師だと!?」

「はっ! 魔導師たちの使い魔が殺害されております!」

「相手側は敵意を持って、こちらに迫っているものと思われます!」


 使い魔たちは、特殊なペイントなどは一切施していない、ごく一般的な鳥たちであったはずだ。この辺りでも遊覧飛行しているのをよく見る種であった。

 それを、敵側の魔導師の偵察であると看過し、撃破してきたということは。


「――明確な、宣戦布告か。面白い!」


 兵長は周辺の衛兵たちを鼓舞するようにわざと大きな声をあげ、すでにワームの姿が目視できるほどに迫ってきた敵軍を睨み、さらに声を張り上げる。


「全兵に伝達!! 相手側はやる気満々のようだ! いささか道理から外れるかも知れんが、相手側の流儀にて、全力で御相手しやるのだ!!」


 応ッ!と空気を震わせ、衛兵たちが兵長の言葉に応じる。

 大砲の弾込めが終わり、その先がワームたちの方を向いた時、彼らの後方から警鐘が鳴り響く。

 フォルティスグランダムと、謎の軍団。その戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ