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Multi Element 〜幻(ユメ)の代償〜  作者: kon
総和記号―Sigma Scythe―(B)
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(7)

第1章第7話です。

ブクマ、コメント等よろしくお願いします。

 未来を見据える右眼の視界と。

 現在を見詰める左眼の視界と。


 その両方を以って取り囲む《ドロイド》の群れへと走りこむ。


『《小鬼》が三体、ジグザグと向かってきてオレの手足を抑え込み、さらに続いて襲ってきた二体の《伯爵》が滅多刺しにする』


 凄惨な未来視。

 でも、そうはならない。

 いや、そうはさせない。


 《空牙》が三本、まっすぐにはしり、《小鬼》の胴をそれぞれ貫く。そして続いて現れた《伯爵》に対し、右手に握った《黎玄》と、停止させたまま作り出した《空牙》を左手に応戦する。


 本来、オレの実力では二体の《伯爵》の攻撃を二刀流で捌くような真似をできない。けれど、クロノスの眼を有している今、それはそれほど難しいことではない。

 オレには次の一手が見えているのだから。


 片方の《伯爵》を退かせたところで、踏みつけるようにして抑えつけると《空牙》を頭部に突き立てる。

 ガガガッ!

 中の部品が砕ける音が耳に響く。


 息つく間もなく、背後から斬りかかってくる《伯爵》のサーベルを見ることなく《黎玄》で受け止めると、振り返る勢いを利用して足を払った。そのままとどめを刺そうと《空牙》を生成しようとしたときに不意に現れた北條の鎌が《伯爵》の首を刈った。


「おい、北條、横取りはねぇんじゃねぇの?」


 わざと猟奇的なセリフを吐いて北條を睨んだ。しかし、北條はそれに答えるではなく訝しげな顔でオレを見ていた。


「随分と変わったなぁ、お前」

「あ?」

「その眼。なんだ?」


 ――しまった。オレは咄嗟に右眼を隠す。今、オレの右眼は水色に染まっている。それは確かに疑問に思うのは仕方ない。


「なんでもねぇよ」

「まぁ、言いたくねぇならいいんだけどよ。さっきのは本気じゃなかったってことでいいのか?」

「……」


 どう言ったものか。北條との戦いは本気ではあったけれど、オレの全ての力を使っていたか、という問いには必ずしもイエスとは言えない。しかし、かといってそうおいそれと使える力ではないのだ。


「はぁ……だんまりか。さっき、未来ちゃんになんでそこまで執着するかって聞いたな?」

「なんだよ、急に。オレには関係ねぇってさっき言ってただろうが」

「ああ。確かにお前には関係ねぇよ。だからお前にも今から俺の問いに関係ないと答えてもいいんだがよ。お前に一つ聞きてぇ。お前は今何のために戦ってる?」


 何のために。オレは何のために戦うのか。何のためにこのどうしようもない代償を支払う力を使うのか。


「護るため、かな」

「何から、何を?」

「全てから、オレの居場所を」

「お前の居場所ってのは未来ちゃんがいるところなのか?」

「……まぁ、そうだろうな。オレは未来に借りがある。返しても返しきれないような恩義がある。だけど、いや、だからこそオレが未来の側にいて未来の笑顔を少しでも増やしてやりたいんだ。そういう意味では未来のためなのかもしれないし、自分のためなのかもしれないな」

「ふーん。そういうのを、世間では恋愛感情って言うんだけどな」

「いや、だからそういうんじゃねぇって最初から言ってんだろうが」

「お前は分かってないことが多すぎるよ。もう少し人の心って奴を学んだほうがいいぜ」

「は? なんでそんなことお前に言われなきゃなんねぇんだよ?」

「アドバイスだよ。お前がそんなんじゃあ、互いに報われねぇ」


 やけに態度が柔らかくなった北條にオレは少し驚いて、右眼を隠すように横を向いていた姿勢から正対した。




 しかし、そのときオレは奇妙なことに気づいた。




 右眼――クロノスの眼に北條の姿が映っていなかったのである。


 いや、正確に表現すると映っていないのではなく、左眼で北條がいるはずの場所には無が有ったのである。


 無が有ったという表現が非常に矛盾めいたものでは分かっている。けれど、そう表現するしかない。

 強いてもう少し分かりやすく表現するならば、北條が居る場所だけ視界に穴が空いているのである。


 これは一体――。


「おっと。ありゃあ親玉か?」

 北條はオレの驚きになんて気づきもしないで振り返りながら言った。北條の視線の先にいたのは一体の《伯爵》だった。しかし、それはただの《伯爵》ではなかった。


 その周りに他の《ドロイド》たちが集い、そして粒子へと還元されていく。そして一体の《伯爵》を除いて全ての《ドロイド》が光り輝く粒子となると、その残った《伯爵》はその粒子を取り込み始めたのである。


「緒多、お前今何体倒した?」

「六体だよ。お前が横取りしなきゃあ七体だったけどな」

「そうか。そりゃ上等だ。オレもさっき横取りしたので丁度六体目だったからな。これで決着が付くわけだ」

「あいつを倒した方が勝ちってわけか?」

「おうよ。まぁ二〇体だと引き分けって線もあったからな。ちょうどいいぜ」


 他の《ドロイド》を取り込んだ《伯爵》は今や《伯爵》のスペックを上回る機体へとその型を変更させていた。


 女性じみたフォルムと細い三対六枚の羽を持つその型の名前は――。


「《熾天使セラフィム》か。さすがの俺も実際に見るのは初めてだぜ」


 北條が鎌を構えながら言う。見る限り《熾天使》は武器を持っていない。しかし、北條の声音には確かに緊張があった。


 刹那。


 《熾天使》の姿から消えた。

 尤も、消えたのは左眼の視界からであって、右眼の視界には襲い来る敵の姿が見えている。


『視界から消えたと感じるほどの速度でオレの背後に回り込んだ《熾天使》は巨大な手裏剣のような武器で斬りつけた』


 姿を見失うような高速など、《道化師》と戦ったときに死ぬほど味わったのだ。だからこれも避けられるはずだった。

 しかし、未来視には続きがあった。


『《熾天使》の持つ武器が触れた瞬間、オレの身体に張り巡らされているベールが黒く発色し、そしてMINEが音を立てて砕けた』



 篠原先生の授業のことをオレはあまり覚えていなかったけれど、一つ覚えていることがあった。


 MINEを破壊する装置は存在する。


 《色彩殺し(アクロマート)》と呼ばれるシステムを組み込まれたME装備あるいはMINEがその筆頭として知られる。そして、《色彩殺し》は単なる絶対安全武力戦争における敗北以上のダメージを生じさせる。


 今オレと北條が相対している《熾天使》が持つその手裏剣のような武器こそその《色彩殺し》なのだとオレには一瞬で理解できたし、右眼に北條が映らない以上、北條を助けながら自分もその攻撃を免れるなんて余裕がないことも分かっていた。



 そして、悔しいけれどこの方法しか、この悪魔のような《熾天使》を倒す方法を思いつかなかったのである。



 オレは《熾天使》の武器をあえて受け止め、そしてその体を抱え込むようにして地面に押さえつけた。



「あああああああああああああああああああああ!!」



 身体中の皮膚を剥がされるかのような激痛にオレは喉が裂けんばかりに叫んだ。そしていつもは透過性質を持つベールが黒く明滅する。


「おい、緒多! 何してんだ、てめぇは!?」

「み、見りゃあ分かんだろうが――!ゔっ!あ、《色彩殺し》だよ!早くお前がトドメを――!!」

「チッ。格好つけやがって――!!」


 北條はすぐに理解したようで、その異形の鎌を思い切り振り下ろした。


「おおおおおお!」


 北條の咆哮とともに《総和記号シグマ・サイズ》の所以たる質量増加能力で少しずつ刃が《熾天使》のボディに食い込んでいく。

 しかし、《熾天使》は今までの雑兵とはスペックが違う。ギリギリと音を立てながらも武器を持っていない方の手で《シグマ・サイズ》を掴み、引き抜こうとする。


「だったら、もう一本くれてやる!」


 北條は叫ぶと、《シグマ・サイズ》を二振りに増殖させ、そのもう一本も《熾天使》のボディに突き立てた。


 激しく散る火花。

 消え入りそうになる意識を必死に引き止めながらオレは咆哮とも悲鳴とも言えない絶叫の中で《熾天使》の動きを抑え込み続ける。


 その時間が数秒だったか、数十秒だったのかは定かではないけれど、オレには無限地獄のように長く、永い苦痛だった。


 しかし、ついは《熾天使》の動きは止まったのだった。


 オレは身体は起こさないまま、コトリと耳から落ちたMINEがすっかり色を失っているのを見て、そしてメインとなっていたであろう《ドロイド》が倒されたことにより観覧席のシールドが元に戻っていくのを見た。


 観覧席の中にも《ドロイド》は出現していたらしく、いくつかの機体の残骸が転がっている。一瞬、未来に何かあったのではないかという不安がよぎったが、倒れているオレを見つけて必死にスタジアムに降りようとしている姿が見えた。


 また心配をかけてしまうけれど、とにかく未来本人は無事だったのだ。


 それでオレは気が抜けてしまって、今まで堪えていた全てのダメージが一気に襲いかかってくるのを感じた。


 そしてそのまま、気を失ったのである。

どうもkonです。

《色彩殺し》は「Multi Element~刻の代償~」の「深夜のレモンシャーベット」にも出てきているんですねー。悠十くんはどうなってしまうのか!?なぜ北條くんは右眼で見えなかったのか!?次回以降描いていこうと思いますので、ぜひお楽しみに!

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