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第1章第5話です。
ブクマ、コメント等よろしくお願いします。
「ご、ごめんね……ゆ、悠十くん。わ、わたしのせいでこんなことになっちゃって……」
模擬戦のため他の生徒たちが観覧席へ移動するなか、MINEの執行モードを立ち上げ準備しているオレに対して未来は俯きながら言った。
「別に未来のせいじゃないよ。オレが勝手に割って入ってトラブルになったんだから」
オレはポンポンと未来の頭を軽く叩きながら答える。すると突然誰かがオレの背中に飛び乗ってきた。
「うわ!?」
「も~。ゆうくんはやっぱりトラブルメイカーだよね~」
「ちょ、香子さん何してるんですか。重いんでどい――痛い痛い痛い!」
香子がオレのほっぺたを思い切りつねったのでオレは思わず叫んでしまう。
「女の子に重いなんて禁句だよ~。それにしても~、さっきあたしとつーちゃんの間に割り込んだゆうくんがトラブルを起こすなんて笑えないよ~? ミィちゃんのことになると本当にムキになるよね~」
「う……面目ない」
ごもっともな意見に抵抗をやめてうなだれる。
「そういえば、香子さん。オレが未来のことでムキになったって知ってるってことは一部始終を見てたってことですか?」
「まぁね~。これでも内なる保護者だからね~。ゆうくんを含め生徒の動きは把握してるつもりだよ~」
「オレが言うのも図々しいですけど、見てたなら止めてくれても良かったんじゃあ……」
オレが控えめにそう言うと香子には珍しく、そこで黙り込んでしまった。香子はオレの背中に乗っているので彼女が今どんな表情で黙りこくっているのかが分からない。
「香子さん? すいません図々しいこと言って。自分のことは自分で――」
解決しろよって話ですよね、と言いかけたオレの執行服の裾を未来の隣にいた怜が強く引いた。
「……悠十。そうじゃなくて――」
「いいんだよ~。ゆうくんは鈍感さんだからね~。分からないことは分からないんだよ~」
そう言うと、香子はオレの頬をつねっていた手を離して、今度はオレの目を隠した。
「とりあえず~ゆうくんはちゃ~んと勝ってきてね~」
「む、無理しないでね、ゆ、悠十くん!」
「……多分、相手は相当強い。空岸くんの話によれば、執行演習の成績だけならクラスのナンバー2らしい……」
それぞれ言葉を残して未来、香子、怜は観覧席へ向かっていった。
その三人の後ろ姿を見つめながら、ふう、と息を吐く。
――ゆうくんは鈍感さんだからね~。分からないことは分からないんだよ~。
香子はそう言っていた。オレが気づいていないこと、オレが分かっていないこと。そんなものは腐るほどあるのだろうけれど、いまいちなんなのかピンとこなかった。いや、この場合、腐るほどあるからこそ、見つけられないのかもしれない。
砂漠で砂を見つけろと言われれば、探すまでもないのだろうが、特定のある一粒の砂を見つけろと言われてしまうとそれは困難を極める。
自分が「何も分かっていない」ことは知りやすい。けれど、自分が「何を分かっていない」のかはどうも掴めない。
ドームの上に広がる空を仰ぐ。どうも気持ちが晴れないのとは裏腹に嫌味かと思うほど紺碧の晴天だった。
「よぉ。黄昏てるとこ悪いけどな。かったりいから早く終わらせようぜ」
本当にだるそうな声に振り返るとそこには先ほどの少年、北條が真っ白なMINEを装着して立っていた。
「つーか、お前のMINEは黒いんだな」
「それがどうしたんだよ?」
「いや、なに。反りが合わねぇのも納得だなと思ってよ。まさに正反対。文字通り白黒はっきりきっかり決着つけようぜ。どっちが未来ちゃんにふさわしいか」
「未来にふさわしいかなんて未来が決めることだろ。つーかそういう問題じゃなくて、単純に未来にちょっかい出すんじゃねぇってことだろうが」
「そのセリフ自体、『俺の女に手を出してんじゃねぇ』って意味にしかとれないんだけどな。まぁいいや。なんにしろ勝った方が正しい。それでいいだろ」
北條が言い終わるのと同時に視覚ディスプレイに対戦リクエストメッセージが表示され、続けて北條の情報が表示される。
【一機のMINEから対戦リクエストが送られています】
【カラーコード#FFFFFF、ユーザー名:北條衛司。第十二学区元素操作師養育学園9組D5班所属。ME装備技師資格保持者】
北條 衛司。
それが今オレの前に立っている少年の名前らしい。
そして北條のMINEのカラーコードは#FFFFFF。なるほど確かに、#000000のオレとは対極に位置する色である。
「緒多、北條。準備はいいか?」
MINEの通話機能が起動し、篠原先生の声が問いかける。
「オレは大丈夫です」
「俺も準備万端っすよ」
オレと北條が同時に答える。
「分かった。では次の合図で模擬戦を開始しろ」
通話機能が切れて、篠原先生の声が場内スピーカーから聞こえるようになる。
「それでは、緒多悠十・北條衛司による模擬戦を行う。観覧席にいる者たちも初見の対戦相手とどのように渡り合うかという点で自分ならどうするか考えながら観覧するように」
篠原先生がそう言い終わると、スタジアムは一瞬静寂に包まれた。
「模擬戦、開始!」
篠原先生の号令が空気を貫くと同時にオレは右手を掲げ、MINEのローカルメモリーに登録されていた刀、《黎玄》を呼び出す。
一種の工芸品ような、美しい銀と黒のカラーリングを施されたその刀が右手に収まるまで約七秒。
「遅いな」
北條はオレを見ながら言った。その手には大鎌が握られていた。しかし、その刃は異形。ちょうどギリシャ文字のΣの形をしている。
そんな異形の鎌を肩にかけ、首をコキコキと鳴らしながらため息をついた北條は再び口を開いた。
「それ。確か名前は《黎玄》だったか。雑魚のくせに使う装備だけは一丁前ってとこか」
「キーキーキーキーよく鳴くなぁ? 猿野郎」
「いつまでそうやってワンワン威勢張ってられんだろうな? 犬っころが」
オレは《黎玄》を振りかぶってまっすぐに突っ込んでいく。
北條は鎌を構えることもせず、ただこちらを見ていた。
なめられてるなら上等だ。オレは渾身な力で《黎玄》を振り下ろす。
「なんつうか、がっかりだわ。雑魚は雑魚でもここまでだとは思ってなかったぜ」
北條の声。オレの振るった《黎玄》は北條を捉えることなく地面に叩きつけられ、砂煙が舞い上がる。
「しまっ――!」
オレは慌てて構え直そうとするが、刀が地面から離れない。
そこで砂煙が少しずつ晴れていくとともにオレの刀が北條の持っている鎌に押さえつけられていることに気づく。
しかし、気づいた瞬間にオレは北條が振り上げた鎌に薙ぎ払われ、地面を転がった。
「あーあ、何度でも言うぜ。がっかりだよ。コイツの性能チェックにもなりゃしねぇ」
その異形の鎌を軽く振りながら言った北條。性能チェックの片手間に相手にされているらしい。オレは奥歯を強く噛み締めてから刀を支えにして立ち上がる。
冷静になるんだ。悔しいが、ただでさえ実力差がある相手なのだ。冷静さを欠いては勝ち目などあるはずがない。
ふぅと息を吐き出して力を抜く。すると視覚ディスプレイに「ドライバが有効になっていません」というメッセージが表示されていることに気づく。
「(ドライバ……って)」
視覚ディスプレイに表示される「空牙」の文字。断片的な記憶ではあるが、確かに覚えのある言葉。
空を切り裂く、牙。
「なんだよ、緒多。一発かまされてびびっちまったのか?」
「んなわけねーだろーが」
オレは地面を蹴り、走り出す。しかし、今度は北條の方へ猪突猛進するのではなく、北條を中心に円を描くように走る。
「そんな距離をとってどーするつもりだ。刀と鎌とじゃ、逃げてるようにしか見えねーぞ」
「言ってろ!」
オレは北條が半身になる位置で身体を急旋回させて北條の方へまっすぐ駆け込みながら手前二メートルぐらいで《黎玄》を振るった。
すると北條を取り囲むようにずらりと《空牙》が出現した。
北條からすれば十二方向から一気に刃が飛んでくる上、その直後にはオレが走り込んで来る格好だ。
これなら――!!
「ったく。武器の性能にばっかり頼りっぱなしじゃねぇか」
そうぼやくように言った北條は身を屈め鎌を横に引く。
ヴン!!
唸りを上げて射出された十二本の《空牙》たちが北條に襲いかかる。
「(捉えた――)」
しかし、コンマ数秒後オレの予想は大きく覆される。
どうもkonです。
苦手なアクションシーンです……。下手の横好きです……。
でも、頑張って書いていきますので是非お付き合いください。
では次回はAnother MEmoryでお会いしましょう!




