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Multi Element 〜幻(ユメ)の代償〜  作者: kon
天候操作―Calamity Palette―(B)
23/32

(9)

第2章第9話です。


ブクマ、コメント等よろしくお願いします。

 大天使(ガブリエル)




 神の言葉を伝える役目を担う天使。


 聖母マリアの受胎を告知する天使。


 そして、最後の審判を告げる天使。




 その大天使が持つ笛というのがどういうものかということについては、それほど詳しくない。


 しかし、その姿を見れば、およそ正常な物体ではないことは容易に理解できた。



 彼が地面に突き立てた末広がりの怪刀は、その《大天使(ガブリエル)の笛》という言葉を合図にして、その姿を変えたのである。


 笛、というにはあまりに長大だった。


 その形はブブセラのそれに近い。


 刀の時に末広がりであったことの面影を残している。


 いや、正確にはこの笛としての形状がオリジナルであって、それを刀の形に押し込めた結果、あのようなアンバランスな刀になったと言った方が正確かもしれない。


 だが形状よりも問題なのは、その大きさである。さらにいうならその太さではなく、長さが異常なほど長いのだ。


 マウスピース側を天に向けて置いている形になっているわけだが、その当のマウスピースは遥か上空だった。


 しかも並大抵の高さではないのだ。誇張でもなんでもなく、視認が不可能なレベルの高さ。


 天界に住まう大天使(ガブリエル)が下界に向けて、最後の審判を知らせるためのひと吹きに備え、笛を下ろしているかのように。



「な、んだ……それ……」


「知る必要はないことだ。だってお前はいなくなるんだから」


「いなくなる……?」


「そう。いなくなる。この世界にお前はいなくなる」


「だから、そう簡単に負けるわけにはいかないって言っただろうが!」


 オレはシンゲツを構える。


 さっきまではオレの方が圧倒的に優勢だった。しかし、その得体の知れない笛に対し、底知れぬ恐怖が募る。


「いや、それは香子の望むことじゃない。お前は香子の望んでいる『緒多悠十』じゃない」


「香子さんが望む……緒多悠十?」


「そう。お前は何も覚えていない。大事なことは何も。そして気づかない。自分の無自覚と無神経がどれだけ香子を傷付けているのか、気づかないんだ」


「だから、何を言って――」


「そうやって聞けば誰かが答えてくれると思っていること自体が傲慢、不遜だよ」


 そう言って、彼は天に向かって左手を翳す。


 すると、遥か上空に細く伸びている《大天使(ガブリエル)の笛》がその左手に――飲み込まれていく。


 手に飲み込まれていく、という表現が果たして正しいのかは分からない。


 しかし、そう表現するしかない。


 その左の掌には。



 暗い穴が、昏い(うろ)があった。


 その穴に、虚に、その長大な笛が無秩序に粒子へとなって壊れ、飲み込まれていく。吸収されていく。


 それが一体どういうことを意味するのかは分からない。


 だが、それがオレにとって致命的であるということは分かる。


 そして、次に来るその「致命的な何か」を避けなければ、一貫の終わりだということも。


「(クロ!)」


『ああ。分かってるよ、ユウ』


 右眼と左眼の視界が、未来(クロノス)現在(オリジナル)の視界に分離する。



『彼は真っ直ぐに殴りかかって来るが、オレはそれを切り伏せる』


 告げられる未来視。


 その中ではオレの勝利だった。ポジティブな未来視なんて滅多にないせいで逆にどうすればいいか分からなくなる。


 そうこう考えているうちに、現在が未来に追いつき、彼は右手を振りかざして殴りかかってくる。


 ポジティブな未来視が見えた以上、それをそのままなぞるしかない。


 オレは先ほど見た彼の動きの軌道を思い出しながら、彼を迎え討とうと再びシンゲツを水平にする。


 オレと同じ顔をした彼がどんどんと迫って来る。


 それほど俊敏な動きでもなければ、奇怪な動きでもない。


 そして、未来視通りにオレはその胴をシンゲツで斬りはらう。





 とその時、その刃に彼の左手が触れた。



 あの、笛を飲み込んだ、左手。



 すると、当たり前のように彼の左手から鮮血が流れる。


 しかし、そんなことは構わないというように、彼はその左手を刀に沿わせて動かし、今度はオレの右手に触れたのだった。



 その瞬間、恐ろしい事が起きた。



 オレの右手が粒子状に砕けたのだった。


 そう。失われた左手ではなく。オリジナルであるはずのオレの身体である。


 それはME化とも言えるかも知れない。


 オレの身体がMEと化していくのである。


「あ、あああ……ああああああ――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 恐怖のあまり、思わず悲鳴が漏れる。



 痛みはない。



 ただ、オレの身体が粒子となって散り散りになっていくだけ。



「お前の負けだ。これから『俺』が『緒多悠十』になる。お前は心だけになって、この世を彷徨えばいい。そしてお前が不幸にした世界が幸せになっていくのを漂いながら見ていろ」



 瓦解していくオレに対し、彼は言った。


 罪人に対する罰を宣告するように。


 最後の審判を告知した。









 こうしてオレは身体を失ったのだった。




 一振りの刀と時計を残して。


 


どうもkonです。


今回は区切りの問題で少し短いです。すいません。

次回もお楽しみに!

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