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Multi Element 〜幻(ユメ)の代償〜  作者: kon
Another MEmory②
18/32

Phase:03

アナザーストーリーの第3話です。

ブクマ、コメント等よろしくお願いいたします。

 悠十が犯人……?


 思考が停止してしまって、その場に固まったまま、あたしはその映像を凝視する。


 そんなあたしを動かしたのは机の上に置かれていた携帯端末の着信だった。


 心臓が裏返るんじゃないか、というほど驚いた後にあたしは恐る恐る携帯端末を手に取る。


 着信の正体は、なんのことはない。未来からのメールで、用件はと言えば、これから悠十の見舞いに行くから一緒に来ないか、というものだった。


 本来であれば二つ返事で快諾する申し出だ。けれど今は状況が状況だった。


 今回のドロイド暴走事件が悠十の手によるものであるという可能性が浮上してしまった今、平然として彼と会話をする自信が、あたしにはなかった。



 いや、この表現は誤解を生むか。



 別に犯人かもしれない人間に接触することはあたしにとって何ら問題はない。


 むしろ、《内なる保護者(インナーガーディアン)》としての役割を考えればいち早く容疑者に接触し、状況を確認することの方が好ましい。


 だからここで問題なのは、悠十が、という部分なのである。"犯人であるかもしれない悠十"に対して、葵香子という一個人が平静でいられる自信がないのだ。


 そしてあたしは「嘘」をついた。


 体調が悪いために一緒に見舞うことは難しい、と。



* * * * * * * * * * * *



 と、ここで一つ誤解を生まないよう、というか混乱を招かないよう注釈を加えておく必要があるだろう。


 あたしが体調を崩した開始時点はドロイド暴走事件の明くる日であると明言したと思う。


 しかし、聡明な諸君なら気づいているとは思うけれど、悠十や未来が観測し得る事象としての体調不良の開始時点というのは、ドロイド暴走事件の後、この返信が到達した時点である。


 なぜ、そんなことをわざわざ注釈するかと言えば、それも先に明言した通り、今あたしが語っているのは、それこそあたしが騙っていたことを白日の元に晒すためであるが故である。


 つまり、あたしが嘘をついたが故に、悠十や未来が観測した現象とあたしの心象にズレが生じているということである。


 このことが、後の展開を大きく左右するにしろ、しないにしろ、あたしだけがあたしの心象を語り得るという点では明かす意味があるはずである。



 いやはや、注釈が長くなってしまった。本題に戻るとしよう。



 結局、あの現象がどういうことを指し示しているのか、あたしには理解出来なかった。


 そして、動揺しながらもなんとか調べた結果、悠十が校長室に出現した時刻はまさに悠十が衛司と戦っている最中である。


 つまり、確実なアリバイがある。


 しかしながら、監視カメラには嫌というほどはっきりと悠十の姿が映っていたのである。


 つまり、確実な物的証拠である。


 こういう場合、どう判断したらいいものかあたしには分からなかったのである。


 そして判断を下せなかったあたしの行動は「保留」だった。


 あたしにしてはあまりに中途半端な結論だとは思う。


 だが、それ以外の結論はどうしても選べなかったのである。もしあの監視カメラの証拠を報告すれば、とりあえず悠十が拘束されることになるだろう。


 しかし、その証拠となるものはあたしからすれば得体のしれないものなのだ。突如として改変された映像であるそれを、その改変の異様さを目の当たりにしたあたしが、おいそれと提示することの危険性は想像するに難くない。


 だからあたしは、もう少し自分だけで調べたうえで判断する必要があったのだ。


 というわけで、明くる日である。


 その日は一限からの執行演習という予定だったのだが、あの暴走事件をうけ、パッチワークシステムを一時的に凍結することになったらしく、昼まではスタジアムを使えないということでそれはなくなった。


 そしてそれと同時に担当教師である篠原、柊も出払う流れとなったわけである。


 そうなると、必然的にあたしたち2クラスは自習となった。


 もちろん厳しいことで有名な篠原であるから、生徒たちを完全に放置したりはしない。


 しっかりと、たんまりと自習課題が出されている。ある程度生徒の自由に理解があるのかは知らないが、自習課題の後は自由行動可とのことだった。


 おそらく、篠原とは正反対の性格を持つ柊の提案であろうが、もともと自習課題の量が普通の生徒が時間内に終わらせられる量を遥かに超えているので、それも気休め程度である。


 だが、あたしにとっては嬉しい気配りだった。


 その自習課題はあたしにとっては至極簡単に終わるものだ。


 昨日の動揺こそ残ってはいるけれど、自習課題はものの30分で終わった。


 周りの生徒達がうんうん悩みながら課題に取り組む中、あたしは一人ぐぐっと伸びをする。


 さて、では自由時間を使って昨日の原因を探るとするか。


 そう思って浮遊ポッドをハーバーに向かわせようとしたとき、背後から声を掛けられた。


「葵さん。ご機嫌麗しゅう」


 振り返るとアッシュアッシュブラウンのロングストレートの髪を真ん中分けにしている女生徒があたしの浮遊ポッドの後ろに彼女の浮遊ポッドをつけ、手を前に組んだ上品な佇まいで、にこやかに立っていた。


 その女生徒と会話を交わすのはこれが2回目になるだろうか。


「あ〜おはよ〜。どうしたの〜? つーちゃん」


 いつも通り。あたしは語尾を呑気に伸ばして、あたしが勝手につけたあだ名で呼びかける。


 美鳥祇(みどりぎ) (うつつ)


 御縞学院、琥台予備校に並んで三大塾と称される翡翠塾の次期当主。


 あたしがこの第十二学区元素操作師養育学園の代表生として紺碧のベスト(春はカーディガンだったが、衣替えでベストになったのだ。鈍感な悠十の事だから、きっと気づいていないだろうけれど)を着ているのに対抗するように、彼女も翡翠塾の代表生として緑色のベストを着ている。


「葵さん、もちろん課題は終わってらっしゃいますよね?」


「それはもちろん〜。ばっちり〜ばっちり〜。いぇ〜い」


「何よりですわ。では、これからわたくしと決闘をしていただいてもよろしいかしら?」


「え〜。また〜?」


「また、と言われましても、昨日は緒多さんや日中に止められたせいで実際には決闘をしていただいていないように記憶しておりますが?」


「そういえばそうだったね〜」


 もちろんそれくらいのことはあたしだって覚えている。しかし、現の提案にはあまり乗り気ではないというのが本心だった。


 現があたしのことをよく思っていないことは、彼女のプロフィールとあたしのプロフィールを並べて見ればすぐ分かることである。


 しかし、だからと言って、彼女と戦いたいとは思わないのだ。


 話し合いで解決しよう、とかそんなピースフルなことを言っているのではなくて、単にそれぞれの背負っているもののためにそんなことをしているということがやけに馬鹿馬鹿しく、道化じみたものに思えてしまうということだ。


 だが、それと同時に彼女もまた引き下がれない状況であることも嫌というほど理解できてしまうのだ。


 だから、そう簡単には引き下がってくれないことも分かっていた。


「あの執事くんは大丈夫なの〜? また怒られちゃうんじゃな〜い?」


「ええ。日中は自習課題に取り組んでいる最中ですわ。それに"自由時間"に何をしたとしても怒られる筋合いはございませんわ」


 前言撤回。柊の配慮がそのまま裏目に出た。全く嬉しい気配りなんかじゃなかった。


「場所はど〜するの〜? 先生達がパッチワークシステムの停止作業をやってるからスタジアムには入れないよ〜?」


「それも問題ありませんわ。トレーニングルームの許可を取っておりますわ」


 予想はしていたが、やはりそうなるか。トレーニングルームはスタジアムに比べれば小さいが、執行演習をするには問題ない。



 もうこれ以上、現に対してはぐらかす言葉が見つからない。



「分かったよ〜。まぁお互いのスキルアップにもなるし〜。誰も巻き込まないなら問題ないか〜」


「やっとその気になってくださったのですわね。では、今から10分後に第3トレーニングルームでお待ちしておりますわ」


 そう言って現は丁寧に頭を下げると、一足先にハーバーへと向かって行った。


 そしてあたしも、ハーバーに浮遊ポッドを戻すと、ロッカーへ向かった。


 いつもならスタジアムで紫黒色の執行服を受け取るが、スタジアムが封鎖されている今回の場合はそうはいかない。


 現もおそらく同様だろうが、私物の執行服を使うことになるだろう。


 あたしの執行服は青を基調とした物である。余談だが、公式の執行服にはGPS機能が付いているが、私物の執行服にはGPS機能が付いていなかったりする。


 その私物の執行服が入ったケースを持って、あたしは気の向かない足をトレーニングルームへと向けた。

どうもkonです。

香子の語りも結構書くの楽しいです。

来週もアナザーストーリーとなりますがよろしくお願いします。

では次週もお楽しみに!

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