1話
柔らかい春の日差しを受け、花のつぼみもさきはじめるころ。少女の楽しそうな声がオフィスに響き渡る。
「ねぇおじさま!お願いがあるの!」
長いつややかな黒髪に白い肌、質の良い服。
人形の様に美しい彼女は興奮気味に話している。
少女の名は一ノ宮智明。
おじさまというのは彼女の義理の父親であり、この会社の社長だ。父親なのに「おじさま」と呼ばせる彼の趣味の悪さが伺える。
「私ね!このお菓子屋さんのお菓子が食べたいの」
彼女はかなり年季の入った本の写真をゆびさしながら飛び跳ねている。
「へぇ。みせてごらん。」
「ちゃんと地図もついてるじゃないか。これなら行けそうだね。今週は…駄目だから来週の土日に行こうか。」
少女はほっぺたをぷくっと膨らまして、
「だめ。今日じゃないと駄目なの!」
「僕はは大切なお仕事があるからね。来週じゃ駄目なの?」
仕方が無いと溜息をつくと目線をこちらに向けてきた。あぁ、嫌な予感だ。
「城谷君ちょっといいか」
紹介が遅れたが僕は城谷だ。下の名前は秘密の20歳だ。まだピチピチなのだ。
「今の話聞いていたんだろう。娘のお使いに行ってくれないか。」
バイトの僕に断れるはずもなく
「わかりました」
と言ってその場をあとにした。
初投稿作品となります。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。