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夜のほとりで待ち合わせ 14


その翌日、家族は帰って行った。トウマは学校もあるしこれ以上休むわけにはいかない。

「お母さんはしばらく残ってていいよ。俺と父さんでなんとかするから」

「ありがたいけどね、あなたたちに任せたら家の中がきっとしっちゃかめっちゃか」

楽しそうに母が答えて義父と弟がバツの悪そうな顔をした。本人たちもそんな未来しか見えなかったのかもしれない。

「ユキ、元気でね。今度の休みは絶対帰って来てね。きれいなユキを見られたけどあんまり話せなかったから」

「ありがとう。トウマはやさしいね」

「・・・・・・ひょっとしてなにか予定もう入ってる?」

「うーんと。先輩の自主制作の手伝いと自分たちの自主制作が入ってる」

「えええええ」

無理じゃん! と頭を抱えたトウマを見て小さく苦笑いする。申し訳ない。

「ユキ早く卒業してこっち来ればいいのに・・・・・・」

「・・・・・・」

ふと。―――気付く。気付いて、しまう。

「トウマ。そろそろ時間よ。・・・・・・ユキ、ちゃんと食べるのよ」

「うん、お母さんも元気で」

「リトルハッピー・・・・・・」

「あああああ、泣かないで。ほら拭いて拭いて」

家の前まで呼んだタクシーに三人が乗り込む。涙目のトウマと涙を流す義父、それをおもしろそうに眺める母と顔を合わせふは、と笑う。毎度お馴染みの行事だった。

「元気でね。―――本当に」

「うん」

「春休み、なんだか比較的すごい騒動に巻き込まれそうな気がするから頑張って」

お母さまそれなんの予言? と茶化そうとして出来なかった。くしゃみが出たのだ。それも三連続で。

「気を付けて。着いたら連絡して」

「ええ。それじゃあ、またね」

「またね」

「またねー!」

「またね」

「またなあああああ」

「うん、またね」

走り出した車が見えなくなるまで手を振った。道や家の関係上ほんの十秒くらいで見えなくなった車を見送り、ぱたりと手を下ろす。

薄がかるガスの向こう。

どこまでも続いていた路を、思った。

「・・・・・・」

ここはそこではない。海の向こうのあの非日常も高揚感も勢いのあるやさしさも大雑把さもなにもない。自分が送ってきた日常のある世界。かけがえのない世界。

卒業したあとのことについて、母がなにか言ってきたことはない。

卒業したあとどうするのかも。この国で就職するのか、それとも家族の元に行くのか。

言葉の問題はほとんどない。よっぽど専門的な話をされない限りはきちんと意思疎通が出来る。家族がそちらにいるのなら、卒業後ミユキも合流することは比較的自然なことだ。

「・・・・・・やさしいのは、どっちだよ」

それでも母は、なにも言わない。また一緒に暮らそうとも、こっちに来る気はないのとも。

わかっていたのだ。ずっとずっと、気付いて知っていたのだ。―――ミユキがどんな想いを抱えているかを。

「・・・・・・ははは」

敵わない。叶わない。きっと一生かかっても。

ミユキはどこに行くのだろう。それはひとりだろうか。二人だろうか。誰と一緒に、行くのだろうか。



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