夜のほとりで待ち合わせ 4
家のすぐ裏手から森に入っていった。オーリの足取りに迷いはない。だからミユキは、ただオーリに手を引かれて歩き続けるだけだった。・・・・・・それほど早いペースではない。いつだってオーリはミユキと一緒に歩いてくれていたから。
朝の森はしんと静まり返っていた。季節にせいなのか時間のせいなのか動物の気配すらない。しんと静まり返って・・・・・・朝靄の中、誰かの秘密をそっと隠すような。
その静謐な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。身体の中からさらさらと浄化してきれいな硝子になって砂のように美しく崩れ落ちていくような・・・・・・そしてそれを幸せと捉えられるような。幻のような幻想的な一瞬。
「・・・・・・どこに向かってるの?」
「湖。・・・・・・子供の頃家族とよく行った。街の人間もそんなに知らないんじゃないのかな。こっち側にはあんまり来ないから」
「・・・・・・そっか」
「ミユキ。訊いていい?」
「・・・・・・なあに?」
「子供の頃好きだったことの話しただろ」
「うん」
「じゃあ、今まで生きてきて悲しかったことはなに?」
「・・・・・・端的でいい?」
「いいよ」
「・・・・・・」
言葉を―――決めた。
「・・・・・・お父さんが死んだこと、わたしが生きてること、立ち直っていないお母さんがわたしのために微笑ったこと、半身を置き去りにしたこと、のうのうと生き続けていること、また会えたのになにも出来なかったこと、嘘を吐いていること、なのにまだ生きてること、お母さんと離れてほっとしてること、どうしてだかまだ生きてること、それから、」
それから、
「―――オーリが死ぬこと」
そっか、とうなずいた声は小さく笑っていた。
うれしそうに、笑っていた。




