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夜のほとりで待ち合わせ 1


〈 夜のほとりで待ち合わせ 〉


こんなにも多くのひとがこの街にいたのかと、そんな風に思った。昨日街に着いた時間が時間だったので、ディーとアマンダ以外の人間に会っていなかったのだ。

 ディーと、アマンダと、そしてリザ。

 ずっとずっと、家族の帰りを待っていた、美しくてやさしい、強いひと。

「―――私だけ、だいぶ歳を取ったから。あのひと私のことがわかるのかしらって、昔そう言って笑ってた」

 赤い目をして、時折涙を混ぜながらアマンダが言った。その肩をディーが抱く。

「―――わからないわけ、ないじゃない。・・・・・・おじいちゃんは、あんなにおばあちゃんのことを大切にしてたのに」

 ―――この国の葬儀には詳しくないが、普通、遺体をお墓に納めるのは何日か経ってからのことらしい。

 けれど、時間をかけることは年の瀬ということとなにより唯一の身内であるオーリが望まなかった。

 早くじいちゃんの隣に並ばせてあげたい。

 そう言って、静かに眼を伏せた。・・・・・・その想いを、みなが汲んだ。小さな街だったのも幸いした。すぐさまひとの手配が出来たのだ。

 薄っすらと化粧を施され微笑むリザはとてもきれいだった。リザが過ごして来た時間が丁寧に丁寧に積み上げ創り上げた来た芸術の最期の形だった。それは心であり、眼差しであり、リザが生まれてから死ぬまで彼女の持つやさしさが磨き上げて来た穏やかな輝きだった。

「・・・・・・きれいだよ、ばあちゃん」

 棺の中に横たわるリザのその頬にそっと指を触れさせ、オーリがささやく。

 その背中は強張ってもいなかった。悲しみとはまた少し違った。気負いのない、自然に受け入れた―――それでもきちんと、死を尊びリザのお別れと真正面から対峙した、彼の姿だった。

「・・・・・・じいちゃんと父さんと母さんによろしく」

 その言葉が聞こえたのはきっと、すぐそばにいたミユキだけだった。

 オーリの横から、そっと花を一輪棺に差し入れた。

 うつくしいはな。うつくしいひと。

 灰色とその奥の青色の眼は閉ざされ、もう二度と、あのやさしさを持ってミユキを見ることはない。

「・・・・・・おやすみなさい、リザ」

 ―――ずっとずっと、彼を待っていたひと。

 オーリを連れて来てくれて、ありがとうと言ってくれたひと。

 待っていたのだ。孫と再び逢える日を。

 棺の蓋が閉ざされ、土のこもる匂いの中そっと穴に入れられるのを、オーリとじっと見ていた。

 腕に肩が触れ―――そっとその手に触れた。あたたかい手が指を重ねるように握り返す。視線は合わさないままじっと、リザの身体がお墓に眠るまでを見届けた。

「―――あいつ、泣かなかった」

 家に帰り、大勢の訪問客がオーリにお悔やみの言葉をかける中、そっとその場から離れたミユキにディーが言った。

「・・・・・・泣いたらなんて声をかけるべきかわからなかったかもしれないけど」

「・・・・・・どうかな」

 小さな笑みが零れた。苦笑いにも少し似た、面映ゆい笑み。

「なんて声をかけたらいいのかわからなくても―――意外と、自分の想ってることなら言えたりするから」

 自分がその相手を本当に大切にしていたのなら、伝える言葉はきっとそれで十分だ。

ディーが少し驚いたようにミユキを見て―――それから笑った。先ほどのミユキとそっくりの笑顔で。

「そっか。・・・・・・なら、どちみち大丈夫だったな」

「うん」

「・・・・・・あいつのそばに、いてあげてくれないか?」

「・・・・・・今たくさんひとが来てるから、いない方がいいかなって」

「・・・・・・昨日の夜、君もまだここにいるのか訊いた時、君じゃなくてあいつが答えた」

「うん。『いる』って言ってたね」

「俺には、『要る』って聞こえた」

「・・・・・・」

「『要る、ここに』って。・・・・・・そばにいてあげてくれ」

 振り返る。ソファーに腰かけ、順々にお悔やみの言葉を受けるオーリ。

 一瞬だけその波が途切れ、オーリがふらりと立ち上がったのを見て無意識の内に駆け寄った。ひととひとの間をすり抜け、紛れて消えるようにそっと二階へと上がっていったオーリを追いかけ、音を立てないように階段を上る。

 廊下にいくつもかけられた写真。

 彼はじっと、それを見つめていた。

 白い光が、窓から差し込む。

「・・・・・・オーリ」

 静かに声をかけると、オーリが肩越しに振り返った。

 ミユキを見付けて―――小さく、笑う。・・・・・・先ほど、ミユキやディーが浮かべたものと同じそれ。

「・・・・・・ミユキ」

 振り返った身体が両手を軽く広げた。躊躇わず駆け寄って飛び込むと、大切なものを受け止めるようにそっと抱きしめられた。


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