walk on の夕暮れ 16
それからきちんと服を着て、小さくのびをした。ミユキがそうしているのをオーリがしげしげと見つめる。
「・・・・・・身体平気?」
「うん、たぶん」
たぶんとしか言いようがなくて申し訳ないがたぶん。
なんだかオーリは若干心配そうな顔をしていたがミユキがそれを不思議そうな顔で見上げると小さく笑った。くしゃくしゃと頭を撫でる。
「下りよう。ばあちゃんももう起きてるはずだから」
「うん」
最後に頬を撫でた手にすりっと一度頬を擦り付けてからうなずいて立ち上がる。微かに身体が痛んだが動けないほどではない。たぶん。
オーリに続いて部屋を出て階段を下りた。家はしんと静まり返っていて、オーリとミユキが家の中の空気をゆっくりと掻き混ぜる以外、気配もなにもない。
朝日が差し込むキッチン。誰かを待つリビング。こちこちと少しだけこもった音を立てて時を刻む壁時計。
「・・・・・・」
ゆっくりと、二人で視線を巡らす。眼は合わない。合わさなくても、同じことを感じていた。
急ぐわけでもなく。一歩一歩、オーリに続いて廊下を抜ける。
壁に飾られた古い写真。たくさんの笑顔。幸せ。
古い木の扉の前に辿り着く。オーリの部屋よりももっと大きくもっと古びた彫刻ーーー異邦人であるミユキだからこそそれがなにかわかったのかもしれない。美しい模様を描くこの彫刻はきっと、この街を表現したものだ。
オーリの手がドアノブを握り、ゆっくりと部屋に入る。ベッドで眠るひとの傍に並んで―――眼を合わせないまま、手を繋いだ。
その美しいひとは眠っていた。
薄っすらと、微笑みさえ浮かべて。
とても満たされた、幸せそうな顔で―――エリザベス・キサラギは、誰にも妨げられない眠りについていた。
〈 walk on の夕暮れ 青の端役 〉




