walk on の夕暮れ 14
大好きな大きなあたたかい手のひらが頬を撫でてくれる。うれしくて微笑むとすぐ近くで灰色とその奥の青色の眼が微笑って唇を重ねてくれる。
あたたかい。心地良い。うれしい。幸せ。
ふわりと迷子のように手をのばすとしっかりとオーリの手が握ってくれた。手のひらを合わせ、長い指がミユキの指と織り合わすようにしてすっぽりと包む。
何度も名前を呼んで、何度も名前を呼ばれた。―――ずっとずっと、呼ばれなかった名前。自分から避けていた名前。逃げていた名前。―――それでも、自分の名前。この旅の間中あなたが何度も心を込めて呼んでくれた名前。
ミユキ。―――そうだね。ミユキはここにいる。あの時あのジャングルジムから落ちた時に死んでなんかいなかった。
左耳の裏の傷口をなぞられて小さく声を上げた。よくわからない怖さがせり上がってきてぎゅうっと身体にしがみ付くとそれ以上の力で抱きしめ返され一瞬でその恐怖は鈍い痺れとなって消えてゆく。恐怖ですら心地良いだなんて、なんておかしな話だろう。
「オーリ、あのね・・・・・・」
熱さは焦がすような鋭いものなのに、どうしてだか頭の中も身体もふわふわとする。頭の芯も定まらないまま、でもこれだけは絶対に伝えたくてその首に抱き付いた。その髪を梳き、耳元で口を開いた。
「―――ミユキ、愛してる」
言いかけた、瞬間―――耳元でささやかれ、オーリと一番近付いた。頭の中が真っ白になって、それから―――やっぱりずるいのはオーリの方だ、と胸の中で呟く。
ずるい。
先に言うなんて。
言わせてもくれないなんて。
それなのに、全部識ってるようなそんな顔をしてるなんて。
その顔は本当にうれしそうで、満ち足りていて、幸せそうで―――そんな顔をミユキがさせたというなら、まあずるくてもなんでもいいかな、なんて思ってしまって。
幸せが零れて一筋流れていった涙に、オーリが愛おしそうに口付けた。




