walk on の夕暮れ 3
消化によさそうなものをこの国で探すのは大変だ。中途半端な時間だったが軽食を取れる店に入りスープとパンを頼んだ。気を利かせてプレーンなオムレツまで作ってもらえたのでこれはこれでよしとする。
移動中つまむものとしてドライフルーツと大きなビスケットの詰め合わせを買った。飲み物は無難に水。そしてついに、
「行くか」
わくわくという言葉を表情にしたらこんな風になるんじゃないかというくらい明るい顔をしたオーリがキーを回した。ミユキが知っているエンジン音よりもごろごろとした音を立てて車が目を覚ます。
「おおー」
「おおお・・・・・・」
動くんだこの車、という意味の歓声となんだかとっても深い思いが込められた歓声と。ゆるやかに走り出し、徐々に徐々にスピードを上げて行き、おっかなびっくりカーブを切ってメインストリートへ繰り出す。
「おおー、曲がった」
「おお・・・・・・曲がった・・・・・・」
感動して震えてるんじゃないかというくらい体の深いところから低い歓声をあげるオーリの横顔を助手席から見て、ストールの内側で笑いを隠した。
それほど広い街ではない。少し走らせるとすぐに家は疎らになってゆき、やがてただ道がのびるだけの景色へとなる。オーリも手に運転が馴染んだのか浮き上がっていた肩を落ち着かせた。
「オーリ、車好きなんだね」
「親父が好きだった。小さい頃車の玩具とかよく買ってもらってて、お気に入りのやつがこれだった」
「この車?」
だとしたら思い出も深いだろうと思いながら窓枠に手を滑らせる。
「家に玩具まだある?」
「や、親父とお袋が亡くなった時に全部棄てた。子供時代のもので残ってるのは写真くらいじゃないかな」
「そっかあ」
少し残念だったが致し方ない。
オーリはものに対する執着心が薄いのかもしれない。出会う前に売れるものはほとんど売ってしまったようだし―――腕時計のあと唯一残っていたスマホも、先ほど売ってしまったらしい。もう街に着くから必要ないとのことだったけれど。・・・・・・まあ、ミユキのことは売らないらしいので、それならばいい。
オープンカーなので情け容赦なく冷たい風が駆け抜けてゆく。海の上の風とはまた違う、気温は低いが湿度の低いさっぱりとした冷たさ。日本の冬とはまた違う空気。着れるもののほとんどを着込んでいるのでそこまで寒くはないし、首にストールを巻き続けるいい言い訳になるのでむしろ歓迎したいほどだ。肌質のせいなのか首には青黒くなった痣がまだくっきりと残っている。お互い周知の事実ではあるがあえて見せるまでのものではない。「でも、よかったね、子供の頃のお気に入りが運転出来て」
「流石にこれは無理かと思ってたけどなー。・・・・・・ミユキ車酔いやすい?」
「平気な方だよ」
「じゃあ行くぞ」
なにを、と聞き返す前にぐんとスピードが上がった。もう車は日本じゃ見られないようなただひたすら真っ直ぐに続く一本道を走っている―――見渡す限り車は自分たちだけで、なんの障害物もない。
駆け抜けてゆくそのスピードに両手を空に突き出して歓声を上げた。その隣でオーリも楽しそうに笑い声を上げた。




