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ハロー、唄う飛行機 4


飛行機は問題なく離陸した。シートベルト着用の表示が消えたがとりあえずそのまま大人しく席に座ったままでる。ちらりと横にいる彼に目をやると、すやすやと眠りこけていた。自分が言えた口では全くないが、警戒心とかないのだろうか……寝顔は意外と子どもっぽい。

彼から目を外しパスポートに挟んだ航空券を取り出す。急遽購入したチケット。行き先はーーー自由の国の隣国。まさかの隣国であった。人生何が起こるか分からない。

(……この場合、自分が何をしでかすかって話かもしれないけど)

頬杖を付く。アルファベットが記される異国へのチケットを手に、まだ見ぬその国へと思いを馳せる。まあその国を経由して結局は行く予定だった国へ入国するのだが、それにしたって自分の想像していた年末の過ごし方とは全く違う。自分が選んだこととはいえ。

帰りたいと言っていた。最終的な目的地はどこの州になるのだろう。まだ聞いていなかった。彼が起きたら聞いてみよう。

小さく息を吐く。起きていることに対しての自分の無頓着さへの呆れと、少しの高揚感。後悔はまったくしていなかった。

うん、とうなずいて気持ちを切り替える。ごちゃごちゃした常識とか価値観とかはとりあえず置いておこう。少しだけ普通とは言えないであろう自分の人生の中でもこれははっきりと一線を越えた『非日常』だーーーならば思い切りやらせて頂こう。

飛行機は新しいようで座席に取り付けられたモニターは最新型のもののように見えた。エコノミーでもそこそこ足元は広い。

約十時間のフライトだ、がっつり楽しませてもらおうとモニターの液晶を操作してニューリリースの映画を選択する。並ぶリストの中から心が弾んだ映画を選択した。

時折彼の様子を伺いながら映画を観、食事を挟んで彼の様子を伺い。予め食事はいらないと言われていたので起こすことはしない。持ち込んだ食料があるらしいので、起きた時にそれを食べてもらおう。あとは水分と。それまではゆっくり寝ていてもらおう。

夕食が片付けられ、照明が薄暗く落とされた。この状態でのモニターの明滅は眠りの妨げになるだろうと思い映画はやめ、自分も少し眠ろうかと体勢を整えた。その時、彼がふるっと動いた。

「どうしたの?」

起きたのかな、と薄く声をかけると、彼は目を閉じたままむずがるように眉を顰めた。

「……さむい」

幼い声だった。本人も分かっていないかもしれない。

「あ……窓際だからかな。席代わろう」

「いい。寒い……」

いいと言われても。しまっていた自分のストールを首元にかけ、備え付けのブランケットを体にかけた。動きやすいように肘置きを上げると、可動範囲が広がったのが分かったのか彼が身を寄せるようにして肩に頭を置いた。

「オーリ?」

「寒い。……あったかい」

体温に釣られて擦り寄ってきたのか。動物みたいだなと思い少し笑った。

「席代わるよ、いいの?」

「いい……このまま」

あたたかさに満足したように肩にごりごりと頭が押し付けられる。吐息が首筋を撫でて少し擽ったい。

せっかく間近にある眼の色が閉ざされているのは残念だったが、気持ちよく眠れているのなら文句はない。

自分も眠ろうと、左側に体温を感じながらとろとろと目を閉じた。


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