夕焼けの魔法遣い 9
で、現在。ミユキはほとんどなにもまとわない状態でうつ伏せに横たわっていた。うーとかぐーとか変なうめき声が出ないように必死で堪える。
「力加減はどうですか?」
エリカと名乗った美人さんが問うた。笑顔で答える。
「さいこうです・・・・・・」
ふわっと広がるフローラルな香りに頭の中までふにゃっと蕩ける。なんとか式マッサージ、と一応説明は受けたのだが全身に受ける刺激が気持ちよくてあまり頭に入らなかった。疲れが取り除かれ身体中の血の流れがよくなっていく感覚。
ホテルの中にあるエステサロンだった。このあと併設されている美容室と衣装レンタル屋に行く手筈になっている、らしい。
「うぁー、気持ちいい・・・・・・」
「肩が凝っていますね。筋肉が硬くなってます。普段重たいものを運んでいたりしますか?」
「・・・・・・ですね」
カメラにライトに三脚に。正直心当たりしかない。
「エステを受けるのははじめてです・・・・・・気持ちいいー」
確かにこの調子だと時間もかかるなあとか、うわあオーリさまありがとうございます最高ですよとか、あとで拝んでおこうとかいろいろな思いがふやけた思考回路を過る。溶ける。
「マッサージが終了しましたらそちらのシャワーで洗い流して、そのあとあちらの湯船に浸かってください。その間に髪をトリートメントします」
「うわあ、何から何まで・・・・・・」
この単語はあまり好きではないが当て嵌まるのがこれしかない。まるでお姫さまみたいである。
マッサージが終わり、言われた通りシャワーで体についたオイルを流した。湯船に移動し白く染まったお湯に身を浸す。このお湯にもふわふわと花びらが浮いていた。本当豪華だ。
ゆるゆると髪を洗われ、水分を丁寧にタオルで吸い取られ、トリートメント剤を一筋一筋塗り込められる。
「ユキさまの髪はきれいな黒髪ですね。光に透かすとまた違った色合いになって、本当にきれいです。東洋の神秘ですね」
「そんな大層なものではないですけど、気に入ってはいます」
「英語もお上手ですね。・・・・・・正直、安心しました。私どもの中に日本語を喋れる人間がいなかったもので」
「オーリ・・・・・・キサラギさんはなんて依頼を?」
「女の子がひとりいて、その子と今日レストランで食事をしたいのでコーディネートを頼みたいと。せっかくだし気分転換も兼ねたいので、何か人気のプランはありませんかと仰っていました。なので一番人気のこのプランをご紹介させて頂こうと」
「なるほど・・・・・・」
せっかくだから、というのももちろんあるのだろうけれど。・・・・・・なんだか、とってもうれしい。
「あとでドレスを選びましょうね。靴もアクセサリーもたくさんの種類がございますので、ゆっくり選んでください」
「う、あの、こういうところになにが相応しいかよく分からないんです。あと自分が着ても変じゃないかとか」
「もちろんお手伝いさせて頂きます。ユキさまは、そうですね、目元がぱっちりされていらっしゃるので原色系がお似合いになりそうですね」
「で、ですかね。・・・・・・あれ」
嫌な予感がしてきた。ここ、海外だ。
「・・・・・・サイズあるかな」
身長もさることながらその、部分的な問題とか。我ながらもう少し育ってくれてもいいのにと思いながら乳白色の湯の下に隠れた胸元を見下ろす。エリカが楽しそうに笑った。
「大丈夫ですよ、サイズも豊富に揃えております。安心してください」
それから茶目っ気たっぷりな顔で「カワイイノアリマスヨ」と日本語で言った。カワイイは最早世界共通語らしい。「good」と仰々しく言うとうれしそうに笑ってくれた。




