君のための日常 6
眠れないとは言ったが、規則正しい列車の振動とあたたかい布団に横たわるという状況はこれ以上ない睡眠環境だった。体自体も睡眠が足りていない。
なのでいつの間にかに眠っていたらしい。ゆるやかに誰かに呼ばれた気がして手をのばすと、その手が誰かに握られた。大きくてあたたかい手。
「ミユキ。そろそろ国境越えるぞ」
「ん…」
「寝ててもいいけど。見なくていいのか」
「やだ…」
「じゃあ起きて」
笑いを含んだような声音。楽しげな声に釣られるようにして目を開ける。ぼやけた視界の中でも彼がおもしろそうな顔をしているのが分かった。
「ミユキの寝起き見たのはじめてかも。ひょっとしなくても目覚め悪い?」
「…しゅんかんはね…」
一度きつく目を閉じてうーんとのびる。突き出した手がオーリに当たった。
「いて」
「しつれい…。…ん、大丈夫。食堂車行こう」
「寝ててもいいけど」
「や、だ」
唇を尖らせて首を振る。乱れた髪を手探りで梳き、カーテンを開けた。
椅子からはサムがいなくなっていた。靴を履いて立ち上がると、上段のカーテンが半分だけ閉められている。結局ベッドはサムが使っているらしい。
「疲れているのでね。事件事件で移動ばかりだったから」
「…大変なお仕事ですね」
壁に凭れて目を閉じたままクリスが言った。器用に眠っているわけではないらしい。
「行くぞ」
視界を遮るようにオーリがミユキの頭に手をやり引き寄せた。上半身だけ先に連れて行かれおかしなステップを軽く踏みながら歩き出す。ドアに手をかけた。
「ーーーそんなに警戒しなくても」
肩越しに振り返る。が、すぐにオーリの体によって遮られた。
それでもクリスがその鳶色の瞳を開けオーリを見ているのは分かった。冷たくもあたたかくもない平静な目だった。
「いくら僕が銃を携帯してるからと言ってもね。用がないならその子のことを撃ったりしないよ」