君のための日常 1
〈 君のための日常 〉
窓の向こうで景色が流れていく。一定のスピードで去って行くそれをしばらく眺めていたが、くは、と彼があくびをしたので視線を外した。
「眠いの?」
「……すこしね」
「少し?」
「……だいぶ」
もう一度あくび。薄っすらと目が潤い涙が浮かんでいた。
ダニエルのいる街から飛行機に乗って四時間ほど。昨日着いて一瞬で後にした都市にまた来ていた。と言っても辺りを観光する時間もないのであまり縁がなかったとしか言いようがない。
飛行機でまた移動ーーーではなく、今度は列車だった。大陸を横断し国さえも越える日本では考えられないほど長い路線の列車。隣国のこの都市を出るとこれまた四時間ほどで自由の国の都市へと自分たちを届けてくれる。
流石にここまでの列車に乗るのははじめてだったので気分は高揚していた。ラウンジで食事をとり部屋に戻って来てもその気持ちは続いていた。オーリの体調はだいぶよさそうだったがまだ重たいものは食べれず、具の多いスープにライ麦パンを浸してやわらかくしながら食べていた。消化のいいものならたくさん食べれるらしい。追加で同じものをおかわりしていたので安心した。
「少し眠ったら? せっかく寝台車取ったんだし」
四時間ほどの移動だったが、ほとんど寝ていないことと体調を考えて座席ではなく個室の寝台車を取っていた。値は張るがひとの目を気にしないでいいし横になれるしで正直ありがたい。備え付けられた二段ベッドを示して見せると、よく分からないがオーリは渋った。
「……寝るっていうのもなかなか退屈なんだよな」
「そうなの? でも元気になるよ?」
「んー……」
「おもしろい夢とか見れるかも」
「……ミユキが熊に囲まれて右往左往してる夢とか見れるかな」
「それおもしろいの?」
熊って。右往左往する余裕もないだろうに。
渋々、というようにオーリが下の段のベッドに横たわろうとして、ふと思い付いたように顔を上げた。
「上と下どっちがいい?」
「え? どっちでもいいよ」
「本当に? あとから『上がよかったのにー!』とか騒いだりしない?」
「……わたしもう二十歳だよ」
「違うだろ十九歳」
にやっと笑ったオーリが下の段に横たわる。自分より下になった灰色と青色の目を不満気に見下ろす。
「もうすぐ誕生日来るもん」
「へえ。何月?」
「三月」
「三ヶ月も先じゃん」
「たった三ヶ月だよ」
「三ヶ月は長いよ」
どうだか。じとっと睨むとオーリは楽しそうにくつくつ笑った。
「夢見るまでもなくおもしろいもの見れたから満足。おやすみ」
「……おやすみなさいっ」
べーっと舌を出して見せた。それこそが子供っぽい仕草だったと気付いたのは、布団の下に潜ったオーリの肩がしばらく小刻みに震えているのを見てからだった。
活動報告に短編を載せました。
久々の詐欺師、青年、少女でした。
詐欺師と青年のやり取りに少しだけ懐かしい気持ちになりました。
お時間がある時に読んで頂けたら幸いです。