第一章『魔王復活』:-002-
少し遅れて日付が変わってしまいましたが月曜日の分を更新いたします。
(2015/02/09 01:05)
「貴様……魔王の使い魔だな!?」
金髪男がオレを助けてくれた少女に問う。
いつのまにか雨が降っていて、その強い雨音に耳が痛くなる。
「だとしたら何です? 勇者」
と、少女は答えず聞き返した。勇者――確かに少女は金髪男をそう呼んだ。
コイツが、こんな奴が勇者? そしてオレが魔王?人をいきなり襲いだし、挙句に殺そうと追ってきたコイツの方が、どう見ても魔王ではないか!
「質問を質問で返すな!!」
金髪男が動き、その目のように赤く燃えた手刀を犬耳娘の首を目掛けて出す。が、彼女はは金髪男の燃えている手首を臆することなく左手で掴み取り、彼の足を払い、掌打で後ろに突き飛ばす。
一つのミスもないその動きで天使のような綺麗な白髪が揺れた。雨で足場が悪い所為か、金髪男は大きく後ろに倒れこんだ。
「ぐっ……くっ、速さだけはあるみたいだな……」
掌底が鳩尾に入ったにも関わらず、金髪男は怯まずに素早く体制を立て直した。
燃えた手を掴んだせいで少女の手の平は黒く、焼けただれている。そこから煙と一緒に肉の焦げる匂いが出て橋下に充満するが、雨のお陰で地面から出た土の匂いがその嫌な匂いを薄めていた。
「おい、お前……その手……」
「大丈夫です、主」
「でも……くっ、何なんだよ!さっきからわけわかんねぇ!! オレはルシファーなんかじゃねぇ!! 大体テメェ等も一体誰なんだ!」
もう我慢の限界だ。 一日に三回も死ぬ思いをしたっていうのに、誰も現状を教えてくれない。
コイツがオレを狙うのは勇者やら魔王やらを聞けば察しがつく。だが、間違いなく人違いだ!オレは生まれてこの方、自分が魔王だと両親から聞かされたことはないし、中学二年生の時にそんな設定を考えたことはない!
大体、この娘は一体何なんだ!どこから現れた!?オレを助けてくれたのは感謝してるし、恩も感じてる!だけど現実味がなさすぎる!何だその付け耳と尻尾は!つーか、ジーンズ穿いてんじゃねぇか!半ケツしてるし、尻尾生えてるし……ジーンズって言うイマドキなズボン持ってるんだから上もあるはずだろ!?着ろよ!
「説明は後です。今は逃げますよ」
そう言うと犬の少女はオレを、川に投げ込んだ――
――死んだのか?
今思い出せばつまらない時間を延々と続けた日々だった。嫌な事からは目を背けて、つまらないと言いながらも行動も起こさない。誰かがオレの人生を変える出来事を起こして欲しいと願うだけの人生。
「……い……ろ……。 おま……」
何だか声が聞こえる。これが走馬灯と言う物なのだろうか。全く、これから死ぬかもしれないというのに、人間とはコレまでのことを反省するかのように見るのか……。こんなつまらないありふれた人生なんて、反省する点すら見つからない平凡な物だよ。
「生きろ、お前の日々はこれから楽しい物になる。迷惑かけるかも知れないが、俺の眷属達を……よろしく頼む」
銀髪の男――
あんたが――
そうだ……折角誰かがオレの人生を変える出来事を起こしてくれたんじゃないか!死ねない……!死んでたまるか……!面白い事ばかりじゃないかも知れないけれど、これから退屈しないような出来事がオレを待ってるんだ!
途端、胸に激痛が走る。
何度も咳き込み、口から水を吐く。目の前が一瞬暗くなって、チカチカと頭痛がする。
「やった!」
「何だ……?」
なんとか頭を振って視界を鮮明にする。そうすると、半裸の少女がオレに馬乗りになっていた。オレをあの男から助けてくれた少女だ。
まだ意識が朦朧とする。
ココはどこなんだ……?襲われた橋の下と一見同じようにも見えるが、子犬たちの箱がない。もっと下流にある別の橋だろうか?周りに金髪男の姿はない。どうやらオレ達は川に飛び込んで無事に逃げ切れたらしい。飛び込み、と言うか投げ飛ばしだが。
「あの……」
「何ですか?私に何なりとお申し付け下さい、主よ!」
少女は満面の微笑みをオレに向けている。尻尾も引きちぎれんばかりに暴れている。オレが気絶から回復して嬉しいのだろうか。
「とりあえず、オレの上から降りてくれないかな……。それとオレのブレザー羽織ってくれよ。目のやり場に困る……」
少女と言えど、やはり女性の胸は見慣れなくて、膨らみかけの胸は多くの人に需要があるのかもしれないけれど、オレにとってはまだ子供の胸。だが、胸は胸、巨乳好きでも貧乳が嫌いな奴は居ないのである。
「あっ……!……も、申し訳ございませんでしたぁ……!!」
先ほどまで気絶していたせいか、目が暗闇に慣れていた。
少女は急いでオレの上から降りて、顔を赤めらせながら、シュンとする。この場合、アニメか漫画では長い髪が胸を丁度隠す様な描写が多いが生憎、彼女は短髪だ。今は手で覆っているが、その小さな胸の造形の全てが見える。
「それと――」
オレは自分のブレザーを脱ぎながら、胸が見れて少しニヤけた顔を無理やり真面目な顔に戻し、問う。
「それと、説明してくれないか……?あいつが誰なのかと……俺が魔王だっていうのを――」
オレがそう言うと少女の顔も真面目なものになっていた。
金髪男と対峙していた時のように――