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宝物庫からギターを取り出し、少しチューニングをする。
その仕草だけでちょっと恥ずかしい。
「…恥ずかしいけど歌います!聞いてください。」
テンションあげていこうってことでよくスーパーなロボットが戦うゲームの曲だと思われてるあの曲をアコースティックバージョンで。
立ち上がって未来に吠えるような曲を一発、って事で。
魔力は抑え目で気持ちは多めに込めて、日本語だから意味はわからないだろうけど何かしら感じてくれるはずだ。
「…以上です。」
歌い終わると周りがシーンとしてる。
ワンテンポ遅れての大歓声、大成功だ。歌ってる時もわかったが息を飲んでる人が多かった。
「おい、リード。いい曲じゃねぇか。言葉わかんねぇけど。」
「まぁ、テンション上がったでしょ?」
「おう、なんかわけわかんない連中に立ち向かって行ける気がするぜ。」
それ死亡フラグです。こんな大勢の人前で歌ったのは初めてだから成功してほっとした。
「それで今度うちのパーティーか何かで歌わない?」
「…ギャラ次第ですね。」
世の中金だよ、金。もうお金ないしな。
「お前、公爵のパーティーで歌えるなんて普通の詩人だったら…。いや、なんでもない。」
「まぁ、そうなるな。」
なんにしろ、終わってよかった。
「と、まぁこのようにリードは詩人としての才能はあるが。冒険者としてはからっきしだ。」
民衆に向かってティスカ公が喋りかける。アンコールがどこかしらから響いているが流石に無理だ。ごめんなさいと頭を下げる。
「細かい説明はメイドに任せるとしよう!」
そういってティスカ公が一歩引いてメイドが出てくる。メイドのが有能だしな。
「流石マスター、いい曲でしたよ。」
「おう、ありがとうな。銀も。」
シェリーの隣に行くと褒めてくれた。銀もワンワンと褒め称えてくれてるのがわかった。
「リード、今度わたくしのパーティーで歌ってもらえませんか?」
「さっきティスカ公にも言われたけど、ギャラ次第だな。…何気に入ったの?」
「…まぁ、悪くはなかったですわね。歌の方は初めて聴きましたがいい曲でしたわ。」
「素直に褒めてくれてもええんじゃよ?」
「いい声でしたわ!…これでいいんですの?」
「よし、それに免じて一回くらいなら本気の俺の演奏と歌を見せてやるよ。」
「え?あれで本気じゃないんですの?」
「俺が本気で歌ったら民衆操れるんじゃね?やったことないけど。」
「…一昔前に歌姫がいましたわ。」
「え?」
「その歌姫は歌で熱狂的な信者を作り一つの国を作り上げました。…最終的にどうなったと思います?」
「…えー、滅びた?」
「そうですわ、その熱狂的な信者達によって滅ぼされましたわ。…気を付けませんとね。」
「流石にそれは…。」
作り話っぽいけどこの世界ならありそう。実際元の世界でも似たような感じのやつはあるしなぁ。
これは本気で歌うなんてできないぞ。
「まぁ、マスターなら全然問題なさそうですけどね。」
「確かにリードなら全部まとめそうな気がしますけど。」
シェリーとレイの意見が合致する。
「あんまり歌わない方がいいんかね。」
「それは勿体無いですわ!」
「私だけに聞かせれば問題ないです。」
「メイドさんの説明聞かなきゃ。」
なんか戦いが勃発しそうなので大人しくメイドさんの説明を聞くことにした。
要約すると、迷宮は全部で5階層。最終階にはボスがいる。そこまでたどり着きボスを倒せば終わり。その様子は水晶を通して広場で映し出される。俺は守られてついていくだけ。全部予定通りにいけば3日くらいで終わる。
これくらいか、迷宮にはいったらティスカ公が色々説明、いやレイがしてくれるな。ティスカ公はあてにならん。
メイドが話を終えて帰ってくる。入れ替わりでティスカ公がもう一度進み出る。
「という具合になっている。よし、後は自由に騒いでよし!!」
とティスカ公が言うとお祭りが始まった。もう始まるのかと思ったが前夜祭みたいなもんだな。
「どーよ、俺色々かっこよかっただろ?」
「まぁ、公爵の仕事はできてたんじゃない?」
ティスカ公が俺の方に向かって歩いてくる。
舞台の脇にみんな集まってるが既に俺はお祭りに参加したい感じだ。
「そりゃ、よかった。…なんで俺はリードに訊いてるんだろうな?」
「知らねぇよ。」
ダンも傍にいるので俺に訊いてくるのはまずいだろ。俺の態度も普通にやばいと思うけど。