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昔なんか作った気がするが全然覚えてないな。
むしろ錬金ってそっちメインなはずなんだけど。
「いいんですのよ、錬金が出来るなら手作りが一番ですわ。」
「ぐぬぬぬ。」
シェリーさん、顔歪んでますよ。
「まぁ、俺も練習になるし。別にいいけど。」
「マスター!」
「え?何?」
「…んー!なんでもないです!!」
いや絶対怒ってるやん。
「それじゃあ、頼みましたわね。」
そういって笑顔で会場の方に帰っていくレイ、それを悔しそうに見つめるシェリー。
なんかわからんがさっきと立場逆転してるな。
「マスターのあほー。」
「ちょっと意味わかんないんですけど!」
「本当に女心がわかんないですね!」
「お前女心とかフェルマーの定理より難しいじゃねぇか、わかるかよ。」
「…ふん!」
ご機嫌斜めのシェリーさん。ちなみにもちろんフェルマーなんて名前だけしか知らないよ?
広場には続々と人が集まってきてそろそろ始まるみたいだった。
無言のシェリーと肉を頬張る銀をつれて舞台の方に行く。
「おう、リード。今日は頼んだぞ?」
「別に今日潜るわけじゃないでしょうに。それに頑張るのはシェリーです。」
ティスカ公がいつもと同じようにそれなり豪華で動きやすい服装で出迎える。その横にはクラウ夫人も立っている。
「そうだったな。…そうだ、紹介しておくか。おーい!ダン!こっちにこい!」
「はっはい!今すぐにでも!」
そう言ってティスカ公が一人の男を呼んだ。その男がビクビクしながらもこちらに向かってくる。
「リード、…じゃなかった。シェリー、こいつが今日の潜る迷宮を作った迷宮職人のダンだ。」
完全に萎縮している男の肩をバンバン叩きながらティスカ公が紹介する。
「今回迷宮を作成しました、ダンと言う者です!よろしくお願いします!」
「あら、そんなに畏まらなくても私はただの平民ですよ?」
シェリーがガチガチに緊張しているダンにそう言った。
「いえ!公爵様と一緒に迷宮に潜ると言う名誉ある方なので!」
「…やりづらいですね。」
根が真面目なんだろう。それでも若干ビクビクしまくりなのは表に出るようなタイプじゃないからか。
「私はシェリーです、今回ティスカ公と一緒に迷宮に潜る魔法使いです。」
「私はダンと言う者です、今回の迷宮を作成しました!」
お見合いかよ。
「あー、それと今回初の試みなんだが。一般人を連れて行くって言ってただろ?それがそこのリードだ。…ついでに犬もいるぞ。」
「…どうも。」
銀もワンと返事をする。
「俺が民衆を守れるってことを証明する為に、シェリーの弟であるリードと犬を連れて迷宮に潜ることで民衆は安心してこの街に暮らせる。そう主張するための試みだな。」
なるほど、そうしたのか。ただ、一応俺は冒険者なんだがいいのか?いやでも実力的にはランクFだし、一般人となんもかわらんか。
「…本当に大丈夫なんですか?」
「心配はいらん、全部守ってやる。」
そう言ったティスカ公は頼もしかったが、何かあったら頼むって目線ですぐに頼もしさは消えた。
「…それで後でこの人の実力は?」
「…一応ここらでトップの迷宮職人だ。」
「…ティスカ公とかに危険が及ぶ可能性は?」
「…そりゃあるが、お前が出る程ではないとは思う。」
ティスカ公とこそこそと内緒話。確認しておきたいことが何個かある。
「…広場の水晶に映し出されるって言ってたが声はどうなる?」
「…流石に声までは無理だ。だから映像だけだぞ。」
なら別に無詠唱でも問題ないか、それに俺が魔法で手伝ったとしても大丈夫ってことだ。
「…一応言っておくが可能な限りは俺たちに任せろよ?」
「…めんどくさいし頑張ってください。」
俺が魔法無双したらティスカ公の立場ないもんな。そりゃ可能な限り手を出さないさ。
「何話してるんですか?」
「え?いや、ティスカおじいちゃんが耳が遠くて聞こえないって言うからさ。」
「お前、一応公の場だからな?…レイの婿になればそれも間違ってないのか。」
「あっ、すいません。さっきのなしで。」
ディスってもプラスに持ってくその姿勢は本当に見習いたい。
その会話を聞いてダンが訝しげにこっちを見てる。まぁ別に気にしなくてもいいか。
「そろそろ開会式が始まりますわよ。…レイも来ましたわね。さっきから妙にテンションが高かったんですけど、リードは何か知りませんか?」
「あー、全然知らないっすね。」
レイがスキップしながらこっちに向かってきてる。それを見てシェリーが舌打ちをかます、俺はしらばっくれる。
「…何かあったんですね。」
「黙秘権!」
下手に何か言ったらめんどくさくなりそうだ。




