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「あー、その話なんだけどやっぱり俺には向いてないかな。」
入るとしたらもう実力を隠したままずっとやっていくか、もしくはもう蹂躙するしかない。
どっちにしろ危険だろうし、何より俺がそのクランに入って得することがない。
「本当に入らないのかい?色々と学べると思うよ?」
「まぁ、そうなんだけど…。今は他に色々やることがあってさ。」
明後日にはもう迷宮はいらんといけないし、それにそのあとにはそろそろエンちゃん迎えに行く計画も立てないといけないしな。
ミストとはそれなりに共闘してわかったが信頼出来る存在になるだろう、けれで他のクランの奴らはどうだ?第一印象からして最悪だ。
それらに守られたり、もしくは守ったりしてまで戦うメリットはないだろう。
それなら公爵と一緒に迷宮入ったほうがマシだな。
「…そうか、残念だ。」
「ここまでしてもらって悪いんだけどね。」
「まぁ、俺が好きでやったことだからね。うーむ、それでも惜しいな…。」
流石に強引に入れるわけにはいかないのかそれ以上言ってくることはないがかなり悔しそうだ。
「それに仲間ならここにいるしな。」
シェリーと銀を見渡して言う。実際俺らで事足りるだろう。
「リード君には攻撃が当たるなんてことはないですよ。」
ニコりと笑いながらシェリーが言う。いざとなればシェリーを盾にするしかないな。
銀はぴょんぴょんしながら自己主張してる。喋れてたら絶対頼もしいこと言ってくれたに違いない。
「…確かにシェリーさんがいれば後衛は問題ないですが。」
前衛はどうするって感じだな。まぁ銀と俺が前衛に出るんだけども。
「流石に自分達の実力くらいわかってるので、自分にこなせる依頼だけこなしますよ。」
嘘は言ってない。本当の事をほんの少し言ってないだけだ。
「それがわかってるならいいんだ。…まぁ君たちだけで依頼をこなす必要はないからね。時々俺とも一緒に依頼をこなすといい。」
確かに。別に俺たちだけでやる必要はないな。どっちにしろ、気分次第って感じか。
いやそれだと実力隠さないといけないし、めんどくさいな。
「それもありですね。…まぁすいませんがクランに入るのはなしってことで。」
「仕方がない。他の詩人候補を探すとするよ。」
仕方がない…死んでもらう!とかにならなくてよかった。いや返り討ちにするけど。
帰り道はミストと日常会話をしながら帰る。
驚いたことにこの人、妻子持ちだそうだ。歳は27、子供はまだ6歳らしい。やっぱりこの世界は結婚が早いんだな。
妻子持ちでクランマスターでイケメンで性格も実力もいい、これは嫉妬の対象になりますわ。
絶対嫁さん美人だろうしな。
今回の収穫は依頼のお金にゴブリンの魔石とミストの個人情報、そして精霊術師の事か。
部屋に戻ったら早速使ってみよう。俺は何が呼べるんだろうか。
「せっかくだから夕飯でもどうかな?」
「いいんですか?…犬も一緒ですけど。」
ついでにシェリーは果実しか食べませんけど。
「大勢で食べたほうが美味しいだろ?」
それには賛成だが。まぁミストとは一日一緒に過ごして結構親密になったきがする。こんなお誘いがくるとは思わなかったが。
「大丈夫なようだね。…じゃあちょっと食材の買い物していこうか。」
そう言って門を潜って街の中に戻っていく。
「じゃあ、それぞれの好きなものでも買っていこうか。」
「俺は基本的になんでもいいですよ。」
実際前の世界の方が食べ物はうまかった、それでもこっちの味覚になれてきたのか今ではこっちの方が好きだ。
「私は果実ですね。」
(お肉を!)
「銀はお肉が食べたいみたいです。」
それぞれの意見を言う。銀は喋れないから俺が通訳だ。
「うんうん、それじゃあ、色々と買って帰ろうか。」
普段から買い物するのが慣れてるのか、ミストは普通に材料を買っていく。
さては嫁さんの尻に敷かれてんな?
「ここが俺の家だ。」
中央の広場から少し外れたとこにある大きな家に案内された。
俺の実家よりでかい、しかもこの位置にあるってことは土地の値段も高いだろう。やっぱり稼いでるんだな。
「立派な家ですねー。」
素直な感想が出る。
「それなりにね?依頼をこなしてるとお金は溜まっていくからね。」
クールに言うとこがイケメンだわ。
「ただいまー!今日はお客さんをつれてきたぞー!」
「おかえりなさい!!」
ミストが扉を開けると弾丸のように一つの影が飛び出してきてミストにしがみついた。




