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「いえいえ、ではでは。」
そういってすぐに出ていこうとする。
「まぁ、待って欲しい。少し話を聞いてくれないか?」
「別に俺は話すことはないので、ではでは。」
「おいおい、俺らのクランマスターが話するって言ってんだろ?黙って聞けよ。」
「やめないか。…すまないな、こちらとしても強制ではないんだが。この前迷惑をかけた謝罪をしたい。」
取り巻きの男を黙らせてクランマスターさんはこちらに向きなおす。
「改めて謝罪をしたい。私はクラン【漆黒の炎】のクランマスターをやっている、ミストと言うものだ。この前はうちのものが迷惑をかけたようですまなかったな。」
「別に何もされてないんでいいっすよ、話はそれだけですか?ではでは。」
そそくさと扉から出ていこうとする、今回も俺の面倒事センサーがビンビンだぜ。しかも大して面白くなさそうな面倒事だろう。
「まぁ、少し話くらいいいじゃないか。…座りたまえ。」
「…少しくらいならいいっすけど。」
そういってミストは席を指差す。出来れば回避したいけど、話こじれそうだし聞くだけ聞くか。
向こうは男6人の汗臭組。こちらは男一人と女二人と犬一匹の意味わからない組み合わせ。
「リード、いいんですの?」
「まぁ話だけならいいだろ。それにこじれたらめんどくさい。」
レイに耳打ちして伝える。シェリーに関してはもう男達が入ってきた瞬間から顔が無表情になって怖い。
「大丈夫かな?…姫様をこんなとこに座らせるのは少し気が引けるがしょうがない。」
男達がびっくりした顔でレイをマジマジ見てる。バレテーラ、まぁいい。予想の範囲内だ。
「さて、話っていうのは単純なんだけど。君をうちのクランにスカウトしたいんだ。」
みんな座り終わってからミストが切り出す。会って即誘うのか。見た目はただのガキだぞ?
「俺をですか?なんでですか?」
「困惑してるみたいだね、今うちのギルドは詩人が足りてないんだ。」
「なるほど、その人たちに聞いたんですね。俺が詩人だってことを。」
それでも少し弱いな。俺が演奏してるとこなんて見たことないはずだ。実力なんてわかったもんじゃないだろ。
「そういうことだね、…実はね。ほとんど勘みたいなものなんだ。」
「勘、ですか?」
「そうだね。こいつらから話を聞いたんだが、…色々と腑に落ちないところがあってね。」
この人優秀っぽいな。こいつらをまとめてクランマスターやってるだけはあるってことか。あんまりまとめられてない気がするけど。
「俺には腑に落ちないとこはないんですけどね。」
一応しらばっくれてみる。
「…君がそういうならいいよ。ただ今回会ったことで確信に変わったね。…なぜランクFの詩人さんが姫様と一緒に行動しているのかな?」
「…。さぁ?どうしてでしょう?」
苦しいな、何かしらあると思われてるなこれは。
「…そこで君をうちに誘ってみようと思ったのさ。どうだい?」
「お断りします。」
答えなんて決まってる、正直この人自体は出来る人だろうし、悪い感じもしないがネトゲでクランつったら録なことがない。
ギルド内の女性関係で崩壊したり、クラン内で内部分裂したり、パーティーメンバーのまとめ役がいきなりいなくなって解散したり。
それにすぐにヒャッハーしちゃうモヒカンいるとこなんて入りたくないわ。
「まぁ、そうなるよね。…じゃあ俺たちと一緒に一つ依頼をこなしてみないかい?」
「なんでそうなるんですか?はっきりと断ったんですが。」
「まぁまぁ、君にとっても悪い話じゃないと思うよ?依頼がこなせて尚且つ他の人の戦いが見れるんだから。」
確かに、依頼自体は受けてみたいとこではあった。ただこいつらと一緒ってのがなぁー。一回襲われかけてるしな。
「受付さーん!ぶっちゃけこの人信用できますか?」
こっちの話をチラチラと見つつ盗み聞きしてるであろう受付け嬢に聞いてみる。
「…え?そりゃ、【漆黒の炎】はランクBのクランですからね、下っ端ならいざ知らずマスターならば信用出来ますよ。うちのお得意さんでもありますからね。」
いきなり話を振られびっくりしながらもしっかり答えてくれる。嘘ではなさそうだ。
「…君すごいね、普通聞きにくいことをこうも堂々と言い放つなんて。」
「そりゃここで聞いてなくて罠にかかるなんて目も当てられませんからね。」
「なるほどな、それでどうするんだい?」
依頼を一緒にこなすかどうかってことだろう。ぶっちゃけどっちもいい感じだ。冒険者ギルドでどう依頼をこなすかってのを知るってのはメリットになる。
「シェリーはどうしたい?」
「ゴミがいないなら別にどうでもいいです。」
強烈なストレート。後ろの男達が立ち上がろうとするがミストが止めてる。
(銀はどうよ?)
(我も主様に従います。)
流石に犬状態の銀に話しかけるわけにもいかないので念喋で話しかける。どっちもでいいっぽいな。
「わたくしは流石にいけませんわよ?」
「わかってる、これは俺たちの問題だしな。」
レイが話しかけてくる、流石に姫様同行ってのはまずいだろうしな。いやレイならいいかもしれんが。




