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「…フハハハ!!バレてしまっては仕方がない…。我は魔王!この世界に混沌をもたらす者だ!」
胸を張ってそう答える。
「おいおーい。存在が魔王みたいだけど違いますよ。」
「ほら、あの人固まってますよ。」
トールを見ると石像みたいに固まってる。
「…嘘嘘、魔王なんていないし、俺は普通の人族だよ?」
「…さすがに信じてませんけど、この状況でよくそんなこと言えましたね。」
「マスターはちょっとアレな人なんで…。」
「人をおかしい人みたいに言うな!」
「おかしいじゃないですか、主様は色々と。」
「そっちのおかしいじゃなくてね?銀もちょっとズレてるよな。」
「人としてズレてるマスターには言われたくないはずです。」
「シェリーさーん、もう少しオブラートに包もうね?」
「オブラートってなんですか?」
「…話がわからないんだけど。」
おいてけぼりのトール、そりゃそうだ。
「んー、シェリーは妖精で銀はバトルウルフ、俺は人族でシェリーと銀を使役しています。ここまではいい?」
「妖精…、それにバトルウルフだって!?この犬が!?」
「我の今の姿は仮のようなものなので…。戻りましょうか?」
「俺らを潰す気か。今のはいいボケだったぞ、その調子だ銀。」
「はぁ…。」
「あれこの顔わかってない感じかな?」
「話進めましょうよ、マスター。」
「仰せのままにシェリー様。」
「気持ち悪い。」
「その言葉が…、聞きたかった。」
「「「うわぁ…。」」」
ついてこれてなかったトールまで口からこの言葉が漏れた。ちょっとじゃなくて大分傷ついた。
「簡単に言うと、俺は色々なことが出来るので今はそれがどこまで出来るのか実験中ってことです。」
「…意味がわからないが、先ほどの鍛冶の腕、それに使役してる魔物の位の高さ…、どれをとっても一級品です。」
「まぁな!」
「そこで威張るんですか。」
「俺思ったんだ、威張れる時に威張っておかないと全然チャンスこないって。」
「はいはい。」
「…それならば何故僕のところに?自分で大抵のことができてしまうならこんなところに来る必要はないでしょう。」
「それがちょっと厄介でね、やり方がわからないと出来ないんだ。馬にうまく乗れるんだけど馬自体を見たことない、みたいな感じ。」
「今回の例えもレベル低いですね。」
「シャラップ!」
「なるほど、それで僕の鍛冶を見せて欲しいって言ったんだね?」
「トールさんを利用した感じになっちゃったんだけど…。そこは申し訳ないと思ってます。」
「いいんだ、別に。こうして話してもらってるしね。それにあのまま僕の鍛冶だけ見て去るって選択肢もあったはずだ。」
やっぱお人好しだなこの人。借金の連帯保証人とかになって損するタイプだわ。
「そういってもらえると助かります。」
「…君の正体は大体わかった。」
「まぁなんとなく変な人がいるって程度でいいと思いますよ。」
「主様的確ですね、それ。」
「そういうのは私の仕事です。」
「シェリー先輩、すいません。」
ディスりの優先度なんて聞きたくないわい。
「…君は先ほど魔力の流れがわかるって言ってたね?よかったらもう少し詳しく教えてくれないかい?」
急に目に力が篭ったな、職人の血が騒ぐってやつか。
「罪滅ぼしってわけじゃないですけど、出来る限りは教えようと思ってます。」
「…なんだか子供に教わるなんて恥ずかしいな。」
「騙されちゃいけません。見かけは子供でも中身は色々なエキスパートが混ざった変人ですから。」
「間違っちゃいない。間違っちゃいないんだが…。まぁいいや、さっきの続きなんですが。まず鉄全てに魔力を込める練習から始めましょうか。」
「ふむふむ、こんな感じかい?」
そう言って残ってる鉄クズにトールが魔力を込めていく。
「そうそう、それで詠唱するんだけど。その時にどこに魔力を込めるとか考えずに剣の形だけ作ってみましょうか。」
そういってトールに詠唱してもらう。ふむ、今度は満遍なく魔力が通ってるな。
「ふぅ…、こんな感じかな?でもあまり出来がよくないけど…。」
「これでいいんです。まずはこれで慣れましょう、それに初心者用ならこれで十分なはずです。」
出来上がったダガーを見てそう言う。
「確かにそうだけど…。これじゃすぐに使えなくなっちゃうよ。」
「なんで頑丈に作ろうとしてたんですか?」
「え?そりゃ僕の作った剣を使ってそれが折れて怪我でもしたら大変じゃないか、何を当たり前の事を言ってるんだい?」
この人なりに使い手のこと考えてやってた事なのか…。でもそれはエゴってもんだ。使う人だって折れる使い方するやつが悪い。
「そういうのを考えるのはあとにしましょう。それに使ってくれる人がいないとまず剣の意味がないですよ。」
使ってもらって初めてその剣の使い方ってのがわかるもんだ。最初から特化させてたら使う人選ぶからな。




