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「じゃあ、奥の部屋に行こうか。」
そういって店の奥に入っていくトール。
「おじゃましまーす…。」
続いて俺も入っていく。
「…大丈夫なんですか?」
「大丈夫だろ、悪い人じゃなさそうだし。」
シェリーが心配そうにそういう。
「そういう意味じゃないんですけど。」
言いたいことは分かるけど方法さえわかりゃいいんだよ。
店の奥に続く廊下を歩いていく、トールが扉の前で待っている。
「ここで作業するんだ。」
そういって扉をあける。部屋の中はそこそこの大きさで棚がいくつもあり、そこには鉱物の塊がおいてある。
「疑うわけじゃないんだけどあまり鉱物には触らないでね。」
食い入るように鉱物を見てたからやんわり注意されちゃった。確かにこれ盗まれたら大損だろうしな。
鉄とか銅とか銀とか色々あるな。
「触らないんで大丈夫ですよ。」
そういってトールの方に向かう。トールは椅子に座って石のテーブルの上に鉄の塊をおいているところだ。
「これを加工していくんだけど、鍛冶の魔法を使うんだ。」
そう言って鉄に魔力を通していくトール。
「我の思うままに形を変えよ、鍛冶。」
そう呟くトール、鉄が光り、剣の形に変わっていく。あれ?なんかちょっと魔力の流れがおかしいような。
「ふぅ…、こんな感じで作るんだけど。そしてあとは道具とか使って形を整えるんだけど。」
そこには普通の剣があった。柄とかはあとからつけたしていくんだろう。ちょっと新鮮な感じだ。
「これって練習用の剣か何かですか?」
さっきの魔力の流れがおかしかったのは意図的にやってんのかな?
「いや?普通のロングソードを作ったんだけど。」
そのロングソードを手に取り形のチェックをしているトール。
「…なんか魔力の流れがおかしかったような。トールさん、もしかして中心が強くなるように魔力込めてないですか?」
「…魔力の流れが見えるのかい?…確かに僕は頑丈な剣を作るようにやってるけど。」
驚いた顔をしてるトール。やっぱ意識してやってんのか、変に魔力込めちゃってるな。
「それだとあまり全体に魔力が回ってないんでいい物ができないと思うんですけど…。」
思ったことをそのまま言う。
「…どういうことだい?」
真剣な顔をしてトールが聞いてくる。
「ちょっとこれ使ってもいいですか?」
そういって失敗したり残った鉄の塊を指差す。
「別に構わないけど…。」
許可は得た。
「多分親父さんのを見て覚えてるんだと思うんですけど、無駄に変なとこに意識がいってるんですよ。」
作るときの魔力はそんなに多くなかったのでそれでうまく魔力が回らないんだろう。鉄の塊をテーブルの上に置く。
「シンプルにいきましょう。鍛冶。」
そういって鉄の塊に魔力を込める。小さいナイフのようなものを作る。
「…こんな感じに全体に魔力が回るように、」
「今のは…、君は鍛冶職人だったのか!?それにこのナイフ物は小さいがかなり出来がいいぞ…。」
びっくりした顔をして作り上げたナイフと俺の顔を交互に見るトール。
「いや違うんですけど。トールさんの魔力の使い方だとまだ複雑なのは作れないと思うのでこんな感じがいいかと。」
「いや、ここまでのナイフは僕は作れない。」
そういってナイフを持ち上げてナイフをよく見ている。
「んー、魔力自体はトールさんと同じくらいに調整していたので出来ないってことはないと思うんですけど。あとはコントロールすることを覚えれば…。」
「…君は何者なんだい?これほどの物を一瞬で、それも詠唱もなかったみたいだが…。」
また真剣な顔をしてこちらを見てくる。
「あー、またマスターの悪い癖が。」
「これ治らないですよね。」
今まで黙っていたシェリーと銀が我慢できずに口を挟んでくる。
「犬が喋った!?それにマスターって!?」
トールが驚いて椅子から立ち上がる。今までただの犬だと思ってたのが喋ったらそうなるわな。
「…ここまでバレちゃったら言うかー。」
「マスター本当に隠す気あるんですか?」
「めんどくさくなってきたのはちょっとある。」
「主様…。」
びっくりしているトールを置いて漫才を始める俺たち。




