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「え?ここですか?」
店の前まで行くとシェリーが呟く。
まぁわかる、そこそこ大通りにあるのに人気がない。
窓から少し覗くと店の中は少し薄暗かった。
「まぁ、こういう店の方が品があるって言うか…。なんか名品ありそうじゃない?」
「買い物するんですか?」
「いや、そういうことじゃないけど。いいもの作りそうな雰囲気が。」
「あります?」
「…別にええやん?ダメだったら他の場所訊けば!」
意を決して扉をあける、そして中に入っていく。
「大丈夫ですかねぇ…。」
シェリーと銀が後についてくる。
店の中は薄暗いが綺麗にされていて鎧やら剣やらが沢山飾ってあった。
「いらっしゃいませー…。」
あまり覇気のない声が聞こえる。
冴えない20代半ばくらいの男の人が店番をしているようだ。
チラリとこちらを見てガキだとわかった途端ため息をつきやがった。
「はぁ…、ここは子供の来るとこじゃないよ?」
「あっ、一応冒険者なんですけど。」
「あぁ、なるほど。駆け出しだから武器を選びにきたのかな?」
そう言って男の人が立ち上がる。
「一応自己紹介しておこうか、僕はトール。一応この店の主人だ。今日はどんな物を探してるのかな?」
若いのに主人か、やり手なのかな?いやでも客いないしどうなんだろ。
「俺はリード、こっちはシェリーと銀だ。」
そう言ってシェリーと銀を紹介する。
「美人なお姉さんだね。ペットは…、まぁいいか。」
やっぱお姉さんとペットつれてるように見られてるのか。
「それでご用件は?初心者ならこの辺りの剣とかどうだい?」
そういってワゴンセールされてるようなツボの中からひと振りの剣を抜き出す。子供でも扱えるような小型のショートソードだ。
「んー、どうしようかなー。」
そういいながら店の中を見渡す、あまりロクなもんがないな。と店の奥に飾ってある剣が目に付いた。
特徴のなさそうなロングソードだが効果付きだ、【ダマスカスの火炎のロングソード】か。
「あれって、どうなんですか?」
ロングソードを指差して言う。
「あぁ、あれは売り物じゃないんだ。唯一残ってる父の一品でね。」
そういってロングソードを眺める。
「父が作ったものは良い物が多くてね。すぐ売れてしまうんだが、あれだけは残してあるんだ。」
少し悲しそうな顔をするトール。
「…親父さんは?」
「…数年前に亡くなったよ。まだ働き盛りだったんだけどね。」
「それはすいません…。」
「もう昔のことだからね。僕も父親くらいの職人になれるように頑張ってるんだけどね。」
親父さんは結構な鍛冶職人だったっぽいな。あの剣作れるってことはいい職人だったんだろう。
「お兄さんも職人なんですか?」
気になるとこを訊いてみる。
「ん、そうだね。ここにあるものは大体作ってるね。」
そういって店の中を見回す。あまり腕はよくなさそうだな。
「そうなんですか、その作業って見ることできますか?」
「ん?オーダーメイドで作るって事かい?…あまり言いたくないんだけど僕はあまり腕がいい職人ではないよ?」
自分でもわかってるのかそう呟くように言う。なんかやだな。
なまじ父親の腕がよかったからいい場所に店が作れたんだろう。そこで頑張っていたが親父さんが死んでしまって未熟な自分だけが残った。
そして今みたいな感じになっちゃったってことか。
「いえ、そうじゃなくて作るとこが見たいんです。」
なんかちょっと同情しちゃうけどこっちも目的があるからな。
「珍しい子供だね。鍛冶職人を目指しているのかい?」
「いやそうじゃないんですけど…。」
「うーん、見ても楽しいものじゃないと思うけど…。」
「お願いします。この訓練用の剣買いますんで。」
そういって刃が潰してある重そうな剣を指差す。
「…刃が潰してあるとしてもよく訓練用の剣ってわかったね。」
「…見たことあるんで。」
素人じゃ見ただけでわかんないのか。まぁいいか。
「ふむ…、まぁ今日はまだ作ってないし別にいいよ。」
「ありがとうございます。」
基本お人好しっぽいなこの人。目的が達成できそうだ。




