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「助かったわ、あのままあそこにいたらずっと勧誘されてただろうな。国滅ぼすとこだったわ。」
「冗談でもやめてくださいね?お父様達に注意しておかないと。」
まぁそんな気はさらさらないけど注意してくれるなら儲けものだな。
「そんでどこでやるんだ?部屋じゃないのか?」
ずんずんと廊下を進み、庭に出てしまっている。
「部屋の中で魔法なんて危なくて使えませんわ。こっちに訓練場がありますの。」
「ふーん、てっきりこう地下とかにあると思ったんだけど。」
「地下にそんなもの作るなんてコストがかかりすぎますわ。…まぁなくもないですが。」
「ほう、あるのか。」
「迷宮がそのようなものですわ。」
「迷宮…?関係なくない?」
「迷宮で訓練所を作ってもらうってことですわ。結構ありますのよ?」
「…あぁ、そういうことも出来るのか。」
歩きながら会話をする。しばらく歩いていると兵士たちが訓練しているのが見える。
こちらに気がついた兵士たちはランニング中なのに律儀に足を止めてこちらに敬礼をしてる。レイも会釈で返してる。
こう見ると姫っぽいんだけどな。動きやすい服装で手甲っていうフル装備じゃなければ。
「ここですわ。」
とレイが指差す。まぁなんとかなく察してたけどただの広場だ。
「ここで?てっきり壁とかあってそれで隔離されてんのかと。」
「別に隠すような訓練はしてないですわ、それに広い方がやりやすいでしょう?」
確かに、ところどころにかかし見たいなやつが置いてあるし、何に使うかわからんが岩とか置いてある。
「そんなもんか、使っても大丈夫なの?」
訓練しているだろう兵士達もいる。
「いつでも使って大丈夫ですわ。お父様達も使いますし。」
流石武人、訓練してんだな。
「んじゃ使いますか。よっと。」
宝物庫を開き、中から丸太をニュっと出す。
「ほい、銀、手頃な大きさに切ってくれ。」
「はい、主様。」
スパスパと銀が風魔法で木を切っていく、流石銀だ。ちょうど投げやすい大きさに切ってくれる。
「…よし、じゃあ行くぞ。」
「準備は出来てますわ!」
木片を掴み、上に向かって放り投げる。それをレイが風魔法【ウィンドボール】で打ち落とす。
これが結構難しいんだけど、速度や規模を中心に魔力を込めてもらう。
魔力のコントロールと確実に魔法を当てる訓練だ。ちょうどクレー射撃みたいな感じだ。
「ちょっと威力が大きいな。もう少し下げて。」
「はい!」
なんかやけに気合入ってるな。まぁいいけど。
レイが魔法を外した木片は銀がとってくれる。
むしろ一発外したら銀が横からかすめとるようにとっていくので銀を遊んでる気分だ。完全に犬だ。
「暇ですねー。」
「シェリーも木片取ってきたら?」
「それはお銀の仕事ですわ、それにあれに混ざれるわけないでしょ。」
「…確かにな、完全に楽しんでるよな、銀。」
言いながらも木片を投げ続ける。
「…なら後ろの兵士達の訓練に付き合ったら?」
「ご冗談を、こっち眺めてるだけじゃないですか。」
訓練中だったはずの兵士達は何事かとこっちをガン見してる。教官らしき人もこっち見てる。
「まぁ珍しい訓練だろうしな、俺もなんでこんなことしてるかわかんね。」
「意味はあるのでしょ?」
「そりゃあるけどね?」
木片が半分くらいに減ったとこで投げるのをやめる。レイの魔力切れが近い。
「よし、ここまでにするか。」
残った木片を宝物庫にしまい込む。また明日使おう。
「…ふぅ。」
「少し休憩するか。しかし思ったよりも時間が経ってないな。」
30分くらいしか経ってない、これじゃ流石に早すぎるよな。
「まだいけますわ!次は組手なんてどうです?」
「一応魔法の訓練ってことで家庭教師やってるんだけど…。」
そのつもりだったからその格好だったのか。
「いいじゃないですの。リードも動きませんと。」
「あー、まぁいいか。なら銀とシェリーも加えて模擬戦ってことにしようか。」
「…どうチームを分けますの?」
「え?俺対みんなで、多人数戦の訓練でもさせてもらおうかなって。」
「主様いいのですか?」
「やったね!マスターを合法的に殴れるよ!」
「あぁ、レイだけだと実力に差がありすぎるしな。銀は手加減しろよ?模擬戦だからな。シェリーは消し飛ばす。」
「冗談に決まってるじゃないですか。」
「俺も冗談だ。」
はっはっは、と乾いた笑い声が響く、二人共顔が笑ってないけど。
「魔法も交えてやるからな、威力は皆無の水魔法だけ使うから、あたっても濡れるだけで済む。銀とシェリーはレイのフォローをしながら戦うように。」
準備運動をしながらそう言う。
「わかりましたわ。準備はいいですの?」
「あぁ、大丈夫だ。けがしても治癒魔法で治すから心配はいらんからな。」
「…ではいきますわ!」
そういってレイが勢いよくこちらに突っ込んでくる。後ろから銀とシェリーも合わせて突っ込んでくる。
「まぁそうなるよな。」
水魔法で壁を作り出し、バックステップで逃げる。と見せかけて前に突っ込むことにする。




