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「それで…。リードはどうしたいの?」
セリーが神妙な顔つきで訊いてくる。
「俺は旅に出たい。今すぐじゃなくてもいいけど、もっとこの世界のことを知りたい。」
「それで突然ティスカ公国に行くなんて言いだしたのか。…それでそっちはどうなったんだ?」
「公爵と会ってきたよ。かなり面白い人だったけど、一応レイの…お姫様の家庭教師ってことで雇ってもらえることになった。」
「すごいじゃないか!公爵直々に言われたんだろ?…まぁリーの実力があれば当たり前か。」
マーディが褒めてくる。
「あと、俺がすごい力を持ってるってのは出来るだけ内緒にしてほしいんだけど…。」
「…あれだけの事やっといて今更それ言うのか。」
「村の人達には公爵からの援軍だって銀の事言っておいたからそっちは大丈夫。問題は見てた人達なんだけど…。」
「…わかった。少し言ってくる。」
そういってマーディは防衛戦に参加した人達の方に向かっていった。みんな今は魔石を回収している。
「…シェリー達は知っていたの?」
「使役した時に力は見せてるしね、銀も戦って使役したから俺の実力は知ってるはず。」
「マスターの全力なんて見たことないですけどね。」
「正直本気でこられてたら我は今この世にいないでしょう。」
持ち上げすぎです。セリーがため息をつく。
「昔からあなたは何かやってると思ったらそういうことだったのね。」
「やっぱバレてますよね。」
「それでもここまでだとは思わなかったわ。」
「リーばっかりずるい!」
ラニが話に混ざってくる。
「姉ちゃんも魔法の才能があるじゃないか。」
まぁ俺がブーストしたんだけど。
「そうなんだけど…。私もシェリーとか使役してみたい。」
結構口悪い黒妖精ですよ?これ。
「姉ちゃんは魔法のエキスパートを目指せばいいじゃないか。」
「むー!」
怒った天使ですわ。
「ちゃんと公爵に話しておくから、姉ちゃんの憧れの魔法団だぜ?」
「それは嬉しいけど…。」
まだふくれっ面の天使…もといラニ。
「まぁ、これで一通りの話は終わりかな。俺自身もまだ自分の力を把握してないんだ。何が出来るのかとか、よくわからないんだ。」
知らないことはできないしな。
「それでいつまでここにいるの?」
「あー、一応公爵のところに戻って報告とかあるからそんなにいられないかな?」
「また行っちゃうの?」
フランが訊いてくる。上目遣いは卑怯なんですけど…。
「いつでも話できるだろ?…前も言ったけど何回か帰ってくるから。」
「…うん。」
あら、今回は聞き分けがいいのね。助けを求められてすぐに飛んで帰ってきたのがお気に召したのかしら。
「じゃあ、俺たちも魔石拾いに参加しますか。」
そういってマーディ達の方へ向かっていった。
村に帰るとみんな総出で待ってくれてた。
めっちゃ感謝された、銀が。擦り付けたんだけど、すっごい微妙な顔してる銀が少し面白い。まぁ少し倒してたんだしいいじゃない。
今回の魔石はすべて村に寄付するってことにしといた。別にまだお金に困ってないしね。色々とお金かかりそうだし、使ってもらったほうがいいだろ。
ちょっとしたお祭り事みたいになってたが俺たちは公爵に報告があるのでと、断った。
転送石の周りに家族とフランが集まってくる。
「もう行くのか。色々とありがとうな。」
「何いってるの、家族なんだもん。助けるのは当たり前でしょ?」
マーディがお礼を言ってくるが当たり前の事をしただけだ。自分の生まれ故郷見捨てるやつがいるかよ。
「あー、そうだな。流石俺の息子だと褒めておこう。」
頭をくしゃくしゃとなでてくる。荒っぽいけど嫌いじゃないわ!
「…気をつけてね。」
セリーも挨拶をしてくる。
「うん、また何かあったら帰ってくるから。いや、何もなくても帰ってくるかな?」
「無理をしないでね。」
ほっぺにちゅー、美人度92にされて不快なわけないだろ。
「いってらっしゃい、魔法団の事たのんだわよ!」
念を押してくるラニ、よっぽど入りたいんだな…。
「うん、姉ちゃんも魔法の腕磨いておいてね。」
「任せておきなさい!」
今度は逆のほっぺにちゅー、おいおい、ここは天国ですか?天使がいるんですけど。
「坊ちゃんならきっとやれますよ。」
「毎回根拠がないんだけど、ミュウには何かわかってるの?」
「フフ…、秘密です。」
そう言って抱きついてくる。デカイ、何がとは言わないけど。
「…リー、私もいつか行くからね!」
「んん?どこに?」
「リーのところ!」
「はい?」
いつの間にそんな話になったんですか?フランさん。
「お父さんが絶対に逃がすなって言ってた!」
やっぱあの親父怖いわ、娘にそんな事言うなよ…。
「…、いいんじゃない?別にフランが来たいっていうなら。でもまだ公爵のとこにお世話になってるだけだからな。どのみち今は無理だけど…。」
「リーの隣で戦えるくらいになってから行くね!」
無理…じゃないかな?まぁこれを伝えるのは酷だろう。
「うん、待ってるよ。」
「待っててね!」
そう言って抱きついてくるフラン、やっぱさっきも思ったけど成長してやがる…、どこがとは言わないけど。
「…マスターの横は私なんですけどね。」
「主様の足元は我ですな。」
「変なこと言ってないで、ほら、帰るぞ。」
そう言って転送石に手をかざす、銀とシェリーに接触しながら。
「…じゃあ、またね。」
みんな挨拶を返してくれる、また近いうちに帰ってこよう。
「…あっ!」
「マスター?どうしたんです?」
「…いや、ティスカ公国の転送石、俺知らねぇわ。」
「なんでやねん!」
シェリーのコークスクリューツッコミが炸裂する。
「いや行きは転門石使ったやん!ちょっとあの時こっちくることだけしか考えてなかったわ。」
「はぁ…。」
おもいっきりため息つかないでください、シェリーも気づいてなかったじゃん。
「では我が走って帰りましょう。全力ならば朝には着きます。」
「夜通しか…。キツイがなんとかなるか。」
「…リー?別にうちで寝ていいわよ?」
マーディは腹抱えて笑ってたがセリーは心配そうにそう言ってくれた。
「…いや、なんかカッコ悪いしいいや。それにこういうのにもなれないとね。」
「そう?それなら無理に言わないんだけど。」
もうちょっと止めて欲しかった。実際結構きつい、さっきの戦いで少なからず消耗してるし。
「よし、そうと決まったら。銀!」
「はい。」
村に帰る間にまた中型犬になってもらってたが、そう言ってまた元の姿に戻る。
「よっしゃ、じゃあ全力で頼むぞ。」
銀に飛び乗りそう銀に頼む。
「承知しました。」
「少し待って。」
なぜかシェリーがそういうと、銀の上で大人シェリーになる。
「なんでその姿になるのですか?」
「この方がつかまりやすいからですわ。」
思わず敬語になってしまう俺に対してシェリーはギュッと後ろから俺を抱きしめる形で答える。
「シェリー!ずるい!」
下からフランの叫び声が聞こえる。さっさと行ったほうが良さそうだな。
「じゃあ、また。行ってくれ銀。」
「はっ。」
ぐぐぐっと力を込め銀が走り出す、みんな手を振ってたがすぐに見えなくなった。
「フフ、ふたりっきりですね。」
「銀もいますけど。」
風圧は風魔法で相殺してるから声もはっきり聞こえる。だけど今は聞きたくなかったわ。
「なんでちょっと緊張してるんです?マスター…。」
「やめてください、耳元で話しかけないでください。」
「マスター?なんで前の方に行こうとしてるんですか?」
「別に深い意味はないです。少し離れてもらえませんか?」
これはちょっと夜通しは無理だわ。俺の精神が死ぬ。




