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「…予想以上にきつかったです。」
朝日が上がる頃には完全にある意味出来上がってた。
みんな起きてきてボーっとした頭でそう一言つぶやいた。
「やはりリード殿も子供ですからね。」
「よかったですわ、まだ子供の部分が残ってまして。」
突っ込む気にもなれない。
「シェリーいなかったら絶対寝てたわ。ありがとう、シェリー。」
「いいんですよ、これくらい。」
「主様が頑張ってる時に我は寝ててよかったんですか?」
「…銀にはこれから頑張ってもらうから。」
ちょっと気まずそうな銀にフォローしとく。
「次からはちゃんと時間を割り振りましょう。」
「そうするか。シェリー、次からも一緒に見張りしない?」
マーカスが朝食の用意をしながらそういう。
「えー、マスターエッチなことするんだもん。」
「!!!」
座ってろレイ、ウォードもなんとも言えない顔でこっち見るな。
「冗談言えるってことは大丈夫ってことだな。」
「…冗談でしたのね。」
お前は何期待してんだ。
朝食を食べながら3人で3時間ずつくらいで見張りをすることに決めた。
馬車に荷物を詰め込み出発の準備をする。
そそくさと銀の背中に乗り込んで昼寝をする準備をする。
「では行きましょうか。」
「おやすみなさーい。」
マーカスの出発の号令にお休みの挨拶で返す。
もう一刻も早く寝たかった。
昼食の休憩の時に起きて、それからレイに魔法を教えて、余ってる毛布をもらいミットみたいなのを作り手甲に魔力を込める練習をする。
そして夕食の時に木をぶっ倒して薪を作り夕食を食べ銀にも少し魔法を教え、それから寝る。もちろんシャワーを浴びてからね?
見張りはシェリーと一緒にする。前よりは楽になったしシェリーもなんだかんだ言って起きててくれるので大丈夫だった。
そんな感じで2日程たった。
「そろそろ着きますよ。」
「んじゃ銀の背中はレイに任せますか。ちょっと俺気配消すから話しかけるなよ。」
そう言って銀の背中にレイを残して馬車の上に飛び移る。そして気配を消す。
「うぉ!どこいったんですかリード君!」
「話しかけんなって言っただろ…。馬車の上だよ。」
ウォードがびっくりして早速話しかけてる。
「…なるほど、これならいいですね。」
「あとはマーカスに任せるから。」
「わかりました。では街を通りつつ城に向かいますね。」
幸いにもここまで誰とも会ってないからな、前言ってた作戦で問題なさそうだ。
街の入口が近いのか人とすれ違うようになってきた。
みんな銀を見てびっくりして逃げ出そうとするが、馬車を引いてるマーカスを見たり、銀に乗ってるレイが手を振ったりすると、また姫様か…。みたいな感じで騒ぎがすぐに収まる。本当になんか慕われてる?んだな。
「ほら、全く問題がありませんわ。」
レイは胸を張ってそんなことを言う、問題しかない気がするけど俺にとって問題はないからいいか。
どんどん進んでいくと街の前に一応関所みたいなのがあるらしく、兵士がマーカスと何やら話していた。
これ俺密入国?みたいなのになるんじゃねって思ったけどマーカスならなんとかするか。
「また姫様の思いつきですか?バトルウルフなんてよく見つけてきましたね。」
「…まぁな。」
マーカスが苦笑しながらそう答えてる、すまんなマーカス。
すんなりと通してもらえてちょっと拍子抜けした。
「おー、流石にでかいな。」
街に入るとちょっと感動した。人も多いし、家もいっぱいある。そこら中に店があるし露店みたいなのもある。
やっぱりみんな銀をみると少しびっくりとするけど関所のとこで街に姫様が帰ってきた!みたいな事を街の中に言いふらしたんだろう。
みんなレイに向かって手を振ったりしてる、レイも手を振り返してる。
ドヤ顔してるレイうぜぇな…。
「このまま城に向かいますので皆様、道をあけて欲しいですわ。」
レイがそう言って道を開け、気がつけば結構な数の人が集まってきた。
ま、俺はバレることないし。のんびりと城に着くまで観光しとこうかな。
そう思って自分に意味のありそうな店を探した。
「流石に城もでっけぇな」
遠くから見えてたんだけど近くに来るとさらにデカイ。
ただこれ銀いけるか?入れるのか?
外で待っててもいいけどそれだとちょっと心配だよな。
「今帰りましたわ!」
「姫様今度はなんですか?」
門番らしき兵と話をしているレイ。
「お父様をびっくりさせようと思って…。」
「確かにこれはびっくりなさるでしょうが…。」
門番が苦笑するのがわかる。
「おー!!!本当にバトルウルフじゃねぇか!!!またすっげぇもん連れてきたな、レイ!!」
「お父様!!」
公爵様外出てきちゃったよ、慌ててその姿を確認する。
歳は30代前半だろうか、それにしては若々しい感じがする。チラリと腕の筋肉とか見えるけど相当鍛えてるな。
マーディよりも強いなこれは。
「ただいま帰りました。ティスカ公。」
「おうマーカス、ご苦労だった。」
ティスカ公はそういってマーカスをねぎらう、肩に手をバンバンしながら言うなんてすっごいフレンドリーすぎるだろ。この親あっての娘あり、か。
「それでティスカ公、少々問題がありまして…。」
マーカスが切り込む。
「ん?このバトルウルフのことか?」
「…それもありますね。」
ここらが出処か。
「お初にお目にかかります、ティスカ公爵様。私、リード=ニア=アトラス、と申します。」
スタっと馬車から降りて跪きそう言った。




