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「それでいつわたくしのこれ改良してくださいますの?」
チィ、話で流れたと思ったのに。あんまり軽々しく言うものじゃないな。
「試しだよ?成功するかわからないし。」
「それでもやってくださるならやってほしいですわ。」
鉄鋼を取り外し始めるレイ、やばいそんな乗り気じゃないわ俺。
「もしかすると常時ヌルヌルした液体が出るようになるとかそんな失敗しちゃうかもよ?」
「…それは嫌ですわね。リードに限って失敗なんてものはないでしょうが。」
何を根拠にそんなこと言ってるのかわからんけど、わざとするってこともあるんやで?
「マスターの錬金の実力はすごいですからね。きっと大丈夫でしょう。」
シェリーが回り込んで逃げ道を塞いでくる。
「なんか希望的なのある?」
「敵を倒しやすくしてほしいですわ。」
また大雑把すぎる。殴る度に自分の服が裂けてくようにしたろうか。これ売れるんじゃね?それなら殴られた側が服裂けてった方がいいな。
手甲を受け取り神眼で見てみる。【鉄の手甲】普通だ。普通の手甲だ。
「まぁやってみますかー。」
「お願いしますわ!」
レイが気合をいれて言ってくる。俺が気合入れないとダメなんだけどな。
とりあえずレイは風魔法が使えるからそっち系統にして…。魔力を込めながら手甲の形を変えていく。
「…おし、こんなもんだろ。」
元の形よりも少しコンパクトにしておいた、ちょっと女の子が装備するには大きかったからな。
「装備してみますわね。」
手甲を受け取りガチャガチャとはめていく。
「…つけやすいですわね。それと軽くなってますわ。」
「そういうコンセプトだからな。その名も【疾風の鉄の手甲】だ!それなりに自信作だぜ?」
やる気ないとか言ってたけど金属を錬金するのは初めてだったからやってるうちに楽しくなっちゃった。
「それでどういう効果があるんですの?」
殴り心地を試すようにシャドーしてるレイ。ここ銀の背中だからな?あんまり暴れんなよ?
「全体的に軽量化して、魔力を込めるとさらに軽くなる。さらに、その魔力で相手を吹っ飛ばすって品物だ!」
胸を張ってふふふんとそう言い放つ、ちょっと張り切りすぎたかもしれんけど初めての金属だしね?
「…ふーん、こうですの?」
あれ?あんまりお気に召してない?そういいながら魔力を手甲に込める。
「あぁ!こういうことですの!すごいですわ!」
腕をブンブン振りながらそう言ってる。リアクションがワンテンポおせーよ!
「そーだろ、そーだろ。リード様に感謝しなさいよ?」
胸を張ってそう言う。
「感謝しますわ!それで殴るってこうですの?」
「ぶっふぉ!!!」
そう言って俺のお腹あたりを軽く殴ってきた。その途端魔力が解放されて吹っ飛ばされる俺。
「主様!」
銀が吹っ飛ばされた俺を救出するため素早く動く。ナイスだ銀。銀の背中に着地する。
「お前…、人殺す気か…?」
あわあわなってるレイにそう言う。俺じゃなかったら下半身と上半身がさよならバイバイだぞ。
「ごめんなさいですわ!まさかこんな威力があるなんて思っても…。」
必死に謝ってくるレイ。マーカス達も何事かとこっちを見て警戒している。
「…これは俺も悪いな。レイの魔力を考えて出力を大きめにしたけどコントロールの事忘れてたわ。」
青あざになりそうだし、治療魔法をしながらそう言う。
「本当にごめんなさいですわ…。」
めっちゃレイがしょんぼりしてる。これはこれでありだな。
「…貸し一つってことでいいわ。ちょっとまた改良するから貸してくれ。」
そう言ってレイの頭を撫でてやる。
「…はい。」
そういいながら手甲を外すレイ、それを受け取りまた錬金を開始。
やっぱり張り切りすぎてたわ。もっと出力下げてっと。
「ちゃんと扱い方とか教えてやるからそんなしょんぼりするなって。」
「どうせマスターは体ちぎれても復活しますから。」
それはねーよ、シェリー。本当に化物じゃねぇか。それにお前さっきすっごい心配した顔してたろ、見逃してないぞ。
「そろそろ野営の準備をしましょうか。」
日が暮れ始めた時マーカスがそういった。馬を降りて手頃な木に馬をつなぐ。
「そうですわね…。」
未だにテンションが低いレイ、そりゃテンション高かったらそれはそれで嫌だけどさ。
「ウォード、馬車からテントの用意を。」
「ガッテンでさー。」
テキパキと準備している騎士二人。俺も働きますかね。
「銀とシェリーはその辺りで休んでなー。レイはちょっとこっち来て手伝ってくれ。」
そういってレイを連れ出す。変な意味はないぜ?
「なにをするんですの?」
森の傍に連れて行く。
「ちょうどいいからその手甲をこの木で試してくれ。」
薪に使う為だ。本当は落ちてる枝とかのがいいんだけど、自分で加工してちょうどいい感じにすればいいし。
「いいんですの?」
「使い方教えるって言っただろ?練習だな、まずは少し魔力を込めてみてくれ。」
「わかりましたわ。」
そう言って魔力を込めるレイ、俺もあんまり加減とか知らないけど大丈夫だろ。
「んじゃそれでこの木を殴ってみてくれ。」
コンコンと傍の大人くらいの胴回りの木を叩く。
「…いきます!」
ザッと構えをとるレイ、軽く息を吐き、木に向かって右腕を繰り出す。
ドシンといった音と共に木が揺れる。ミシミシ聞こえてきたが折れるまではいかなかった。
「そのくらいでちょうどいい感じか?」
「もう少し練習しますわ。」
そう言ってまた魔力を込め木に向かって次は左腕を突き出す、ドシン、ミシミシと木が揺れる。
何度かレイが木をぶっ叩いていると木が根元から傾いていた。
「それなりに加減覚えたか?」
「そうですわね、これくらいならいいでしょう。」
「んじゃちょっと最後に込められるだけ魔力込めて殴ってくれ。」
「…いいんですの?」
ちょっとトラウマなのかレイが心配そうに言う。
「森の方に飛ばすようにすればいいしな、それに俺が止める。」
「…やってみますわ。」
そう言ってレイが再び構える、さっきより多めに魔力を込めているのがわかる。
「…ハッ!!!」
スっと構えてパッと右腕を突き出す。ドゴンと木が裂けて吹っ飛んで行くとこを無魔法で俺が止める。
「ハァ…これが全力ですわ…。」
魔力を使いすぎたのか少し顔色が悪いレイ。
「言わなくてもわかると思うけどこれだと人が死ぬからな?」
「わかってますわ。」
「慣れるまでは魔力を込めない方がいいだろ。それじゃなくても十分使えるだろうしな。」
よいしょと、レイの吹っ飛ばした木を持ち上げる。
「…なんでそれ持てるんですの?」
持ち上げられなかったら持っていけないだろ?何当たり前なこと言ってんだ。




