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「嘘・・・、こんなところで迎撃されるなんて・・・。」
「俺も予想外。・・・これ近づくのきつくね。」
腕の中でシュルツェが唖然としてる。
その間も雨の様に魔法が飛んでくるが、一発一発は大した威力じゃねぇ。数と速度がやばいだけだ。
まぁ、それを避けてる俺も大概だと思うが。
「これどうします?無理やり突破します?」
「避けながらは流石に無理やぞ。・・・いや、無理じゃねぇかもしれんが、時間かかる。」
「・・・どうするの?」
「・・・つうか、ハイルズどこいったし。・・・あいつ、先行ってやがる。」
狙われてんのが俺だとわかったのかハイルズが全力で大陸に向かってるし。俺は囮か。
「・・・これここで避けてるだけで消耗してくれんかな。」
「まぁ、効果は薄いんじゃないですか?何日突っ立ってるつもりです?」
「だよなぁ。・・・無理やり突っ切って大技使わせたほうがいいか。」
「まぁ、現状こっちからは手出ししてない状況ですしね。・・・こっちも反撃します?」
「んー、その手もありっちゃありだなぁ。」
「ちょっと!この状況でのんきに会話してないで早くどうにかしなさいよ!」
そういわれましても作戦会議中ですし。
まぁ、シュルツェにしたら怖いだろうな。魔法がすっごい勢いでこっち飛んできてるのをスレスレで避けてるし。
俺はちゃんと見えてて避けてるし、いざとなったら遮断出来るのでなんにも怖くないが。
シュルツェは魔法の軌道すら見えてないだろうし、遮断もしらねぇからな。一発でも当たったら死が見えてるしな。
ギュッとされるのは別に嫌いじゃないがどうにかしようか。
「・・・まぁ、強行突破かな。んで崖にでも張り付くか。」
「そうしますか。・・・一応水壁でもしときますね。」
いうのが早いか、俺の前面に海面から海水が浮き上がり、大きな壁になる。・・・若干見にくいが、まぁ有能。
バスバス音を立てて水壁に魔法が当たっていくが、問題はなさそうだ。
「そういうのあるならもっと早くやりなさいよ!」
「怖かったんですか?」
「当たり前でしょ!」
「まぁ、前進っすぞ。」
既にハイルズは崖の方で手降ってやがるし。あいつ、本当にシュルツェに仕えてんの?
シェリーが水壁を前に動かす、それに合わせて俺も前進していく。
「これ、大丈夫でしょうね···強度とか。」
「もし破られても避ける余裕はあるから、大丈夫だ。」
「貫通出来るならそれ相応の魔力使わせたって事で。」
「避けれなかったらダメでしょう!」
そう言われましても、シェリーの水壁突破出来るのなさそうだし大丈夫だ。
徐々に水壁が速度を上げていく、それについて一定間隔をあけながら同じ様に前進していく。
魔法で水壁が削られていくがすぐに元に戻っていく、無限再生水壁だ。
「…大丈夫そうね。」
「そうなるように作ってますから。」
「自身の前方に魔力で水壁を出し、修復分は海から水を足す様にしているのね。・・・一瞬で出したのにかなり複雑に式が作られているわね。」
「・・・やりにくいですね。まぁ、これくらいやれないとマスターは及第点くれないですし。」
「こんくらい普通でしょ。」
「普通じゃないわよ。」
「状況にもよるが自分が思ったとおりに魔法が出せんのはちょっとな。」
「・・・求められてる技術がおかしい。」
いや焦ってる状態ならまだしも普通にしてたらやれんことはないでしょ。
魔法なんて魔力さえあれば思ったとおりに出せるんだから出せや。
思い通りに出せるようになってから本番、魔力の消費とか気にすんのは二の次。ってのが俺の考えだけど、皆賛同してくれないんだよなぁ。母さんとか冒険者やってたからどっちかって言ったら魔力の消費を気にしてる方だ。まぁ、いつどこで襲われるかわからんから魔力使い切るのはあれだしな。
そのまま津波を前方に携えながらハイルズの張り付いている崖まで到着する。
途中から魔法が飛んでこなくなったので崖でこっちの姿を確認出来なくなったんだろう。
「余裕で避けていますし、訳のわからない魔法で突破してきますし、本当に化物ですね。」
「主人見捨てて先に行った奴よりも化物の方が余程信頼出来るわね。」
「見捨てたなんてまさか。私があの場に居てもやれることはなかったですからね、正しい判断ですよ?」
「それが正しいから余計腹が立つのよ。」
シュルツェがハイルズにお小言を言ってる。とりあえずやることがあるので後にして欲しい。
「はいはいはい、ちょっとやる事あるから。ハイルズ、これ・・・、え、それそうやって固定してんの?」
「えぇ、そうですが?」
張り付いているハイルズにシュルツェを渡そうとして気がついた。
こいつ、崖に片手突き刺して自分の体固定してやがる。頭おかしいんちゃう?
「ま、まぁ、人それぞれ・・・だよな!」
「いや、マスターも大概ですけど。」
え、俺は崖に足ブッ刺してるだけだし全然ちゃうやろ。
片手ふさがってたらいざという時にまずいでしょ。・・・まぁシュルツェがいるから両手ふさがってるんですが。
「とりあえず、ハイルズ。これちょっと持ってて。」
「これって私の事!?・・・た、頼むから落とさないでね?」
足をガツガツと崖に突き刺しながらハイルズがいる場所に行き、シュルツェを渡す。
シュルツェが若干涙目になりながら震えている。結構な高さだから落ちたら即死だろうしな。
「わかりましたが、何をするんですか?」
「退路の確保。」
「ちょ、雑に渡さないで。あんまり揺らさないで!」
「うるさいですね。なんで自力で飛べないんですか?」
片手でひょいとシュルツェをハイルズに渡したら怒られたでござる。
シェリーさん煽ってるけど、あなた自力で飛べるくせに俺の肩にいますよね?
「・・・ん、これでいいかな。」
崖の一部を素手でくり抜き、そこに転送石を作成する。
それに俺とシェリーが素早く魔力を通して使えるようにし、すぐに隠蔽で崖に見えるように細工をする。
「・・・後3つくらいは欲しいかな。」
「あぁ、なるほど・・・。そんなことも出来るのね。」
「無策で突っ込む程愚かじゃないんでね。」
「・・・いや?マスターって大抵考えてないですよね?」
いや、考えてますって!




