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「あー、なるほど。魔法使いとかにはならなかったのか?」
「わたくしにはあまりそちらの才能がなかったんですの。それに武道家も楽しいですわよ?」
「さいですか、魔法よかったら教えようと思ったのに。」
「本当ですの!?」
「お、おう。すっごい乗り気だな。」
馬車から身を乗り出してレイがこちらに顔を向ける。今思ったがこう間近でみるとやっぱり綺麗だ。美人度94くらいある。だけど手甲がガシャガシャ言ってるからマイナスだ。
「だって魔法ってすごいのでしょう?あの時あまり見ていなかったのですがわたくし達を助けた時も魔法を使ったのでしょう?」
「いや、正確には違う…、あぁ治癒魔法は使ってたか。」
思い出しながら言う。
「魔物の頭吹っ飛ばしてたのは武器の効果だな。木剣を氷漬けにしてたのは魔法だけど、あれはちょっと真似できないかな。」
「…そういえば、その時の武器はなんだったんですか?てっきり遠くから魔法を使ったのかと。」
「いや、弓だ。見るか?」
そういって宝物庫から弓と矢を取り出し馬車から飛び降りてマーカスに渡す。
「…ちょっと失礼。」
そういい、弓を調べ始める。弦を引っ張ったり矢尻を見たり。
「見たところ普通の木の弓ですが、撃ってみてもいいですか?」
「あぁ、ただちょっと魔力を込めて撃ってみてくれ。」
マーカスが頷くと馬の上で弓を構え、ちょっと遠くにある木に向かって矢を放つ。あー、馬から弓撃つのかっこいいな。
魔力の篭った矢が風を切り木に当たった瞬間に木がえぐれる。撃ったマーカス本人がびっくりしてる。
「…これは凄いですね。一級品ですよこれは。」
マーカス絶賛である。弓と矢を受け取る。
「だろ?俺の自信作だからな。」
「…作ったんですかそれ。」
「マスターのことですので…。」
マーカスはもう驚いた顔をせず淡々とそう言った。シェリー、フォローはもうしなくていい、マーカスも慣れてきてる。
「そんなことよりも魔法を早く!」
俺の弓がそんなことだと?レイにはちょっとお仕置きが必要だな。
「あっ、そうだった。忘れてたわ。」
「なんですの?」
それからレイにしっかりと俺の弓がどれだけ素晴らしいかを教えてその後に魔法の授業をしていたのだが、ふと思い出す。
「いや、ちょっと待っててくれるか?」
「…そうですね。ではここで休憩しましょうか。」
「すまん、助かる。」
「馬に乗ってるのって結構疲れるんですよねー。」
そう言いながらマーカスとウォードは馬を止める。
馬車を引いてる馬にウォードが乗っていて、その横をマーカスが馬に乗り護衛。そしてレイが馬車に乗っていて俺がその馬車の屋根の上、シェリーが俺の肩の上という布陣だ。俺何もしてないって思うけど魔物避けの楽器鳴らしてるからな。何もしてないのはシェリーだ。
「どうしたんですか?マスター。」
マーカスとウォードは昼食の準備だろう、何か作っているようだった。
「いや、思い出したんだけどさ。親父がこの森に主の狼がいるって話してたよな。」
「あぁ、大きなバトルウルフでしたっけ?それがどうしたんです?」
「…欲しいなぁー、って。」
「…。」
シェリーがまた変なこと言い出したみたいな顔をしてる。
「だって欲しくない?乗れるぜ、絶対。マーカス達は馬乗ってるし。俺も乗り物欲しい!」
「バトルウルフを乗り物って言ってる時点で意味がわからないのですが。」
マーディの話によると人族には友好的ではないがこちらから手を出さない限りは襲ってこず、逆に森の魔物を狩ってくれていたりするらしい。
かなり手ごわいらしく、マーディは「ありゃ、無理だ。人手が足らん。今のとこ被害も出てないし放置だな。」って言ってた。
「決まりだな。」
「私賛成も何もしてないんですけど。」
「おーい、ちょっと森の中入ってくるけど心配しないでねー、多分一時間くらいで戻るからー。」
マーカス達にそう言っておく、もう誰も驚いた顔してないし、はいはいいってらっしゃいみたいな雰囲気だしてる。
「ほら、さっさと行こうぜ。」
「私の意見は無視ですか。」
シェリーを引き連れて森へと入っていった。
気配を消し、気配を探しながら木から木へ高速移動。
魔物とも何度かあったがすべて一瞬で魔法で倒す、ほっといてもいいかもしれないがここを見回っているマーディの仕事を少しでも減らすためだ。
「なかなか見つからないね。」
「空飛んだ方が早いんじゃないですか?」
「それもそうだな。忘れてた。」
木から思いっきりジャンプして落ち始める瞬間に自分を無魔法で固定する。
「…どっこかなー。」
「先ほど木に訊いたところ、いつもは森の奥の岩場にいるそうですよ。」
「先にそれ言えよ。てか木と話せるのか。」
「妖精は大抵の植物と話せますよ。もしかして知らなかったんですか?おっくれってるー。」
「あとで10割の力でデコピンだから。」
「消滅しちゃいます。」
岩場の方へと移動する。前までは某玉探しのアニメみたいに浮いてたんだけど結構疲れるので、今は足元だけを固定して文字通り空中を走るように改良している。格ゲーの二段ジャンプみたいな感じだな。
「あれ、そうじゃね?」
「間違いないでしょう。」
岩場のちょっと小高いとこにそれは寝そべって居た。
ちょっと離れたとこに降りてそっちに向かっていく、どんどん姿が大きくなってく。
(人族の子供か、こんなとこに何しにきた。迷子か?)
おいおい、気配消してるのにわかるのか。しかも念喋使ってきてんぞ。
「完全にバレテーラ。シェリー、あいつ念喋使えるぞ。」
「マスター、バトルウルフナメてません?魔物の中でも知能はかなり高いですよ?」
「ほう、やはり妖精を使役しているのか。匂いでわかったがなかなか信じられなかったぞ。」
キェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!
「狼が喋ったぞ!シェリー、見てみろ!」
「マスター、絶対ナメてますよね。」
「なんの用なのかは知らんが早く帰ったほうがいい。妖精を使役してると言ってもこの辺りは危ないからな。」
そっけない態度のバトルウルフ。まぁガキと妖精がゴチャゴチャ喋ってるだけだしな。
「単刀直入に言うんだけど、俺と一緒に来てくれない?」
「それは我を使役したいってことか?」
ゆっくりと体を持ち上げるバトルウルフ。立ち上がるとさらにデケェ、これはもう乗れる。
「そういうことになるな。」
「そうか、妖精は人族に友好的だから使役を使うだけでよかったのだろう。だが、普通は違うぞ。」
「ん?お願いして使役するってのじゃないの?」
「それは友好的な相手だけですね。」
シェリーがフォローしてくれる。
「ってことは、力を示せ的な?」
「そういうことになるな。」
バトルウルフが戦闘態勢に入る。敵対してみてわかるが今までの相手とは桁違いだ。
「おー、なるほど。そっちのが手っ取り早いか。」
「なまじ魔物使いで優秀だったんだろう。すまんが使役目的となったら生かしてはおけないな。」
「んじゃいっちょやりますかね。シェリーは下がっといて。」
「ほう、妖精を使わないのか?別に妖精に屈したからといって我は使役拒否はしないぞ。」
「いや、やっぱ主従関係はしっかりしないとね。」
「まぁマスターなら問題ないと思いますが。」
シェリーを下がらせて少し準備運動をする。
「じゃ、いきますか!」
木剣片手にバトルウルフに開始の合図をする。




