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「はい?俺を招待?」
「はい、是非にと・・・。」
翌日、午前中に家でのんびりと魔法を教えたりと外でまったりとしていたら前に見たここの領主の家紋がついた馬車がやってきた。普通に父さん関係だと思って俺は眺めてただけなんだが、なんか俺に用事があるようだった。
え、何俺なんかしたっけ?・・・いやしてないよな?
「理由を聞いてもいいかな?」
「あの、それは、えっと・・・連れてこいとしか・・・。」
至極当たり前の事を聞いてたメイドさんが滅茶苦茶困ったように目を伏せてしまった。
「え、何も聞いてないの?」
「は、はい。・・・すみません。」
めっちゃ泣きそう。
後ろを振り返るとジト目のみんなの姿が・・・え?これも俺が悪いの?
「また泣かすの?」
「ちょっとトラウマ掘り返すのやめてもらっていいですか?」
「あの、多分話がしたいだけだと思います・・・。」
フランの毒を浴びつつメイドさんが堪えてくれるのを祈るしかない。
つうかこれ本当に何も言ってないのか、ふざけてんな。
「・・・これ、俺行かないとなんかあるよね?」
「い、いえ、決してリード様には害はない、と思います。」
ますますメイドさんが泣きそうになってオドオドしちゃっている。
・・・いや、これめっちゃあるって言ってるようなもんだし。何より例え俺達に被害なくてもこれメイドさんが被害被るパターンのやつだよね。
「あー、こうゆう選択肢がないやつってほんと嫌いだわー。」
「・・・すみません。」
「あ、ごめん。君に言ってるんじゃなくて世界への呪詛っていうか?まぁ、気にしないでくれ。」
んー、あんまり気が進まねぇな。
「・・・まぁ、あなたの好きにすればいいわよ?多分、父さん達とのやつには関係ないでしょうし。」
母さんの方を見るとどっちでもいいらしい。父さん達はあの時何を話していたんだろうな。
「そう言ってくれるのはありがたいんだけど・・・。仮にいかなかった場合。」
そう言って皆を眺めると。
「まぁ、私は二日連続で女の子を泣かせたって事実だけを語り継ぎますけど。」
「私はリー君の好きな方でいいと思うよ!例えかよわいメイドさんが泣いちゃったとしても!」
「んー、昔からリーって女の子を泣かせてるよね。前も村の子泣かせたことあるしー。」
「そんなことがあったんですか?」
「うわー、それはダメよねー。」
おいおい、選択肢がないってもんじゃねぇぞ。四面楚歌じゃねぇか。
「わかった、わかった!行くから!お願いだから泣かないでくれ。」
「す、すみません!・・・泣いてないです。」
いや、めっちゃ顔をハンカチでおおってますがな。
もう、俺も暇じゃねぇんだぞ。なんで領主に呼ばれてんのか知らんけど、下手な用事だったら頭カチ割るぞ。
家の周辺の事をシェリーに頼んで馬車に乗ってその領主のとこまで行くことに、家の事はまぁシェリーに任せとけば大丈夫だ。
問題は俺なんだが。
「・・・。」
「・・・。」
くっそ気まずい。
馬車の中でメイドさんと二人きりだ。御者が二人いたが、それは護衛も兼ねてるんだろう外で馬を操ってる。なんか人相悪かったし、とても貴族の御者に見えない。
外を眺める振りして時間を潰してるんだが、メイドさんがこっちをチラチラとバレないように見てるのがめっちゃ気になる。・・・いや、バレてるんだけど。
流石に沈黙が辛いので話し掛ける事にする。・・・頑張れ、俺!
「えっと、領主様が俺を呼ぶなんて光栄だなー・・・なんて。」
「は、はい。・・・えっと、お呼びしてるのは領主様のご子息のケンプ様です・・・。」
「え?・・・あぁ、そうなの。」
いや、初耳だが?確かに聞いてなかったけど。・・・ここでそれについて責めたらまた泣く可能性があるから責めれないんだが。
「すみません・・・。詳しい話を言う事が出来なくて・・・。」
「あー、いやいいよ。聞いてないなら仕方ないし。」
「すみません・・・。」
めっちゃ謝ってくるな、このメイドさん。すでにまた泣きそうなんだが?
「・・・んー、まぁ、その領主様のご子息に聞いてるかもしれないけど。俺はリード、田舎育ちの詩人だ。・・・君は?」
「え、私・・・ですか?」
とりあえず自己紹介は基本だろう。キョトンとしたメイドさんに頷いてやる。
「私は・・・、シグニと申します・・・。」
「ん、よろしくな、シグニ。」
困惑したような顔のシグニに向けてスマイルを向けておく。・・・俺は全然怖い人じゃないですよー。
「・・・詩人さん、なんですか?」
「あぁ、そうだよ。楽器演奏したりしてる。」
どうやら会話はしてくれそうである。とりあえず怖がらせないように優しく、優しく・・・。
「こんなのをよく演奏してるかな。」
「わー、これって笛ですか?」
宝物庫からオカリナを出して見せてやると初めて見たみたいな反応をされた。・・・まぁ、珍しいか。
まぁでも上々。
「例えばこんな感じだな。」
そう言ってシグニだけに聴かせるようにこっそりと風魔法で音がもれない様にして演奏する。
風の憧憬、これ演奏すんのすっごい心が安らぐんだよな。帰るべき場所っつうか、そんな感じ。
「きれいな音色・・・。」
最初は困惑した感じだったが、徐々に聞き惚れていってくれたようでシグニは目をつぶってそうつぶやいてくれた。・・・自然に口から出た感じなので俺の勝ち!




