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「あっれー?本当に俺が悪いんか?」

皆のいる場所にすごすごと退散して、納得がいかない事を話す。

「そりゃそうでしょう。マスターって自分で気がついてるかわからないですけど、余裕が有る時って喋ってますよね?しかもアドバイスしてますし。」

「そうなん?・・・気がついてなかったわ。」

「まぁ、あの子も可哀想よね。今日初めて槍を持った子に負けるなんてプライドズタズタでしょうに、・・・相手が本当に悪かったわ。」

「途中でやめればよかったのに!あの子口数少なかったけどいい子なんだよ!ディムルさんの言う事しっかり聞いたり一生懸命仕事してたもん!」

「まぁ、リー君が負けるなんて思ってなかったけど。こんな意地悪するなんて思わなかったよ。」

「んー、ご主人様。目で追えてなかったんですが、余裕があったんですか?」

「あーあ、やっちゃったねー。流石に女の子泣かすのはどうかと思うわー。」

と非難轟々だった。

そうですか、これはあれですね。

変な挑発とかせずに途中でタンポ槍叩きおってやめればよかったんですね。

・・・いや、だって本当に楽しかったんだもん!


「いや、まさかここまでやるとは思いませんでしたよ。」

「ひっく・・・。」

しばらくして勝ったのにめっちゃテンションが下がってる俺の前にディムルとまだ若干嗚咽が漏れているフィロが来る。

「・・・最近調子に乗ってる弟子に少しばかりお灸を添える意味でやったのですが、宛が大いに外れました。」

「・・・ひっく。」

「はぁ、そこまで俺が手練に見えたんですか?」

まぁ、実際測り損ねてたワケだが。

「まぁ、そうですね。・・・見えていた雰囲気ではフィロと互角かそれ以下だと、槍で勝負をすると言った時には焦りましたが・・・。フィロより年下でも負けないくらい強い奴がいる、と本人には思って欲しかったんですがね・・・。」

「・・・つまり俺は出汁にされたと。」

「いやいや、本来の目的はさっき言った方で、あくまでこっちは弟子の成長を願った師匠の気まぐれ・・・といったとこです。」

んー、食えないおっさんだなこいつ。どっちにしろ利益はあったわけか。まぁ、それを俺がぶっ壊したわけなんだが。

「・・・まさかフィロがここまで完膚なきまま潰されるとは。」

「・・・まぁ、槍って武器が面白いってのがよくわかりましたよ。・・・んで次は大将が出てくるのかな?」

若干怒りと興味の眼差しがこちらに振りそそってくる。

「まさか、そんなことはしませんよ。大人気ない。」

その瞳を笑顔でさっと消してディムルがそう言った。

「今回は大人しく帰ります。エドランに対する言い訳として上等な物が出来ましたしね。」

「そう。・・・まぁ、気が向いたらそのエドランってのに会ってもいいぜ。姉ちゃんの師匠だしな、こっちとしても興味はある。今は時間が取れねぇけどな。」

社交辞令、社交辞令。

「そうかい?それはいい知らせになりそうだ。・・・では敗者は立ち去るとしよう。」

そう言ってあっさりとディムルが帰ろうとする。

んー、手の内を見せすぎたか?まぁ、でも面白かったし・・・。

「あ、ありがとうございました!お陰様で無事に家につきました!」

「仕事だからね。・・・お城に戻るときは一人で平気かい?」

「はい!もしあれならリーもシェリーもいますから!」

姉ちゃんがディムルにお礼を言ってる。まぁ、送るくらいなら全然します。

「・・・そうかい。」

「・・・フィロさんもありがとうございました!・・・リーが変な事しちゃってごめんなさい。」

「・・・い、いえ・・・しご、とですので・・・ひっく。」

鼻を啜りながらフィロが姉ちゃんに返す。・・・別に変な事はしてないよね?ていうか謝る必要あんのこれ。

「・・・次は負けない。」

フィロが一際大きく深呼吸し、俺を睨みつけてそう宣言してきた。

「あー、じゃあ次は俺無手でやる?槍相手に素手でやってみたいし。」

「くうぅ・・・。」

「やめてあげなさい。」

「いったぃ!なんで叩かれたの俺!」

「リー!なんでそういうこと言うの!」

えぇ、素直に俺のやりたい事いったら母さんに殴られ姉ちゃんに怒られたんだが。

フィロが滅茶苦茶悔しそうにこちらを睨みつけ、踵を返した。

「・・・まぁ、程々に頼むよ。それでは。」

それをなんとも言えない表情で見ていたディムルが頭を下げ、フィロの背中をポンポンと優しく叩きながら帰っていった。

それをしばらく眺めていたら。

「なんでリーは最後に余計な事言っちゃうかな!フィロさんいじめるのよくないよ!」

「いや、いじめてないし!普通にやってて楽しかったから次は無手でやりたいなって素直に思っただけだよ!」

実際槍の型が綺麗だったってのがある。下手な奴とやるよりも絶対楽しい、是非実戦形式で体験させて欲しいがそれはちょっと無理があるな。・・・槍怖いし。

「マスターって本当に何でもかんでも訓練に結びつけますよね。」

「あぁ?いやだってあれってお遊びみたいなもんでしょ?それなら学びたい事したいんだけど。」

「フィロさんずっと真剣だったよ?リー君と戦ってる間。」

「いや、俺も真剣だったし?流石に真剣にやらないと失礼だろ。」

「・・・リー、あなたの真剣ってのと他の人の真剣ってのが違う事をちゃんとわかった方がいいわ。」

えー、何、どこが違うの。一切手は抜いてねぇよ、マジで。

対人戦って学んで強くなってくのが当たり前じゃねぇの?違うの?



「・・・すまなかった。私が実力を見誤っていた。」

「いえ、師匠のせいでは・・・。私の実力が足りなかっただけです。」

帰り道、師匠がそう言ってくれた。

しかし、本当に私は悔しかった。師匠から学んだ槍が一切通じなかったばかりかあのように泣き崩れてしまうなんて。・・・弟子失格だろう。

「いや、本当にあれはちょっと読めなかった。・・・というより、今もまだ読めていない。」

「え・・・?」

師匠を見ると険しい顔をしていた。

何故そんな顔をしているのだろう?私よりも少し強いくらいの相手だったと思うが・・・。

確かに今日初めて槍を持った点については驚愕にも値する。しかし、元々の身体能力が優れているだけでそれをカバーしていたに過ぎないはずだ・・・。

「その様子だと、自分より少し強いくらいの相手だと思っていたか?」

「え、は、はい!確かに身体能力は優れていましたが・・・。」

「・・・、相手が調整してたんだよ。ずっと、フィロに合わせて一定の速さと強さで動いていた。」

「は、はい?」

・・・どういうことだ?・・・私よりちょっと強いという立場をずっと崩さずに戦ってたと言う事なのか?いや、しかし、それは・・・。

「本当によくわからないが・・・。手を抜いていると言うよりも余裕を持って戦ってると言った方がいいだろう。・・・最初、あれは手を出さずに回避しかしていなかっただろ?」

「え、はい。・・・最初はずっと避けてました。」

思い返すと最初の数分はずっと避けられていた気がする。・・・でもカスった場面も多々あったはずだ。

「フィロをずっと観察してた。・・・槍の使い方、力の程度、呼吸のタイミング、癖・・・。と実際にどこまで測ってたかはわからないが、じっと観察していた。」

「え・・・。」

「中盤から一気に窮地に立たされただろう?もう十分だと思ったんだろう。・・・槍の使い方な、あれフィロにそっくりだったぞ。」

「・・・。」

師匠が険しい顔のままに解説をしてくれるが、・・・何を言われているのか段々わからなくなってきた。

「そこからはもう一方的だったわけだ。・・・あれはバケモンだな、何したらあんな子供が育つんだか。」

「・・・、で、でも師匠なら、勝てますよね?」

つい情けない声が出てしまった。師匠の顔色があまりにも悪かったからだ。

「・・・さぁ?底が見えねぇからな・・・。まぁ、俺も負けるとは思ってないが・・・勝てるとも言い切れんな。」

「そ、そんな・・・嘘ですよね?」

師匠の口から出たのは耳を疑いたくなる一言だった。

「嘘じゃねぇよ。この世には俺より強いのなんて山ほどいるしな。・・・一番解せないのがな。」

「・・・。」

師匠があの子供に負ける、そんな事は考えたくなかった。

「あれであいつは自分自身の事を詩人っつってんだ。・・・魔法使いでも剣士でもなく。・・・あの体捌きで魔法をラトニスに教えていて、・・・それで自分は詩人ですってどういうことだろうなぁ。」

「あ・・・。」

そうだ。あれは自分自身の事を詩人だと、魔法は教えれる実力があり、体捌きは未知数。

そんなのが自分は詩人だときっぱりと言い放っていたのだ。

「・・・とりあえずわかったのは、ラトニスが魔法団に入ったのがこの国にとっては大きいってことだ。あれが敵に回る心配は今のとこしなくていい。・・・あー、藪蛇ってもんじゃねぇなこれは。」

「・・・。」

師匠が頭を振ってそう呟いた。もう考えたくないらしい。

私もあれのことはもう考えない方がいいだろう。・・・だいっきらいだし。

「・・・まぁ、相手としては最適か・・・。おい、フィロ。また今度あいつに稽古つけてもらえ。」

「え、嫌です!」

「あれと友好的にしとくのは悪いことじゃない。幸いにもいい感じの相手として見られてたしな。」

「絶対嫌です!!」

例え師匠の命令だとしても嫌なものは嫌だ。・・・泣き顔を見られて恥ずかしいわけじゃなく、大嫌いだからだ!

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