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「いやー、お待たせしましたはい。お久しぶりですね。」
「お久しぶりです。まさか直々に取引に出てくるとは思いませんでした。」
「いえいえ、リード様には今後共ご贔屓にしてもらいたいので・・・。ところで・・・。」
「あぁ、実はトニーとは友人でして。ここまでの案内と話し相手を務めてもらったんですよ。」
「ほほう、それはそれは・・・。」
逃げようとするトニーを椅子に座らせ逃亡阻止しながらゴルスクを待っていたワケだが。
次第に抵抗がなくなったがゴルスクが来た瞬間に頭を下げて微動だにしなくなった。
巻き込んでいくスタイル。
「それで今回は魔石の売却と鉄の買取と承りましたが・・・。」
「はい。魔石は鉄の買取の足しにするので少量ですが、・・・ここで出してもよろしいですか?」
「どうぞ、どうぞ。」
ガチガチになってるトニーを置いて商談を進める。
宝物庫から魔石を取り出し机に並べていく。・・・今回は多めにするか、今あるやつの半分くらい出しておくか。
「・・・これは多いですな。それに質がよろしい・・・、もしかして自然に魔石化させましたか?」
「・・・えぇ、そうですね。」
意味がわからんけど一応同意しておく。・・・自然魔石化ってあれか、剥ぎ取りとかしないでそのまま魔石にするって事かな?ならまぁ俺のは全部そうなってるはずだ。
「・・・いつのまにこんなに。」
「シェリーもおるしな。」
「・・・森に入る様になったのってティスカ公国行った後だよな。・・・そんな頻繁に村に帰ってたのか?」
「いや?時々会ってただろ?週3くらいじゃねぇかな。つってもそんな頻繁に森には入ってねぇけど。さっきも言ったけどシェリーと銀がおるし、フランもついてきてたしな。」
「銀・・・?あれって猟犬だったのか・・・。」
ゴルスクが直々に魔石を鑑定してる間にトニーと話しをする。あぁ、一部の人にしかシェリーと銀のことは話してなかったな。
首を傾げてるのは数があれだからか。
「ふむふむ・・・。・・・トニー、これとこれの値段を、そしてざっとでいいので全部の値段を鑑定してみてください。」
こそこそと話してたら、ゴルスクがトニーを見てそんなことをいった。
トニーの前に魔石が二つ置かれた。
「え、・・・よろしいのですか?」
「えぇ、これも訓練の一環です。」
「わ、わかりました!」
話を振られると思ってなかったんだろう。トニーがあわあわしながら魔石を真剣に眺めだした。んー、小間使いなのに名前覚えられてんならそれなりに目をかけてもらってんじゃね?今もそんな感じだし。
昔から行商の人の手伝いとかしてたし俺に計算の仕方とか聞いてたしな。正名の儀式前からそんなんだったし。
「ふむ・・・。それで鉄の方ですが、どのくらいの物を所望でしょうか?」
「出来れば大量に欲しいので、質の悪い物ってありますか?」
金額が限られてるし、出来上がりのやつも質は良くない物にするつもりだ。だから原料も質のよくない物にしたい。大量生産で質より量で。
「ふむ?・・・そうですね、これくらいでしょうか?」
そう言ってゴルスクが宝物庫をゴソゴソと開いて鉄の塊を何個か出す。
なるほど、サンプルになりそうなのは入れてあんのか、やりますねぇ。
「あぁ、いいですね。・・・このくらいのが大量に欲しいのですが。」
全部を神眼で眺めてちょうど良さそうなのを選ぶ。
「あぁ、やはり鑑定持ちだったんですね。いや失敬、試すようなことになってしまいました、はい。」
あ、うん。ちょっと油断してた。・・・抜け目がねぇな、でもそれを話すってことは邪なことは考えてないってことなのか、或いはこっちを信用させる罠なのか・・・。
まぁ、どっちでもいいや。
「・・・構いませんよ。まぁ特に隠すような事でもないですから。」
「いやはや、そう言いますが鑑定持ちは貴重ですから。商人なら是非欲しいですねぇ・・・。話が逸れました。どのくらいの量をお求めで?」
「金貨2枚とここの魔石の売上、それで買えるだけ買いたい。」
「個人が買うにはそれなりの量ですね。・・・全て一括で?」
「そうしたいが、在庫がない場合は質は問わずに纏めて欲しい。・・・つまり、このお金で一番量が買える鉄が欲しい。」
もうぶっちゃける。正直相場もわからんし、本場の商人相手に交渉とかしても勝てないわ。
「なるほど・・・。こちらに任せても大丈夫なので?」
「あぁ、大手の商会を信用しているってのもありますが。あなた相手に交渉はハードルが高そうですし。」
「そうですか・・・。では信用には答えさせてもらいましょう。」
そう言って手元の羊皮紙に何かをゴルスクが書いて扉の前で控えているメイドに渡した。
「今準備させるので少々お待ちを。こちらに持ち込ませるのは少々手間がかかりますので、倉庫の方で受け渡しになりますがよろしいですか?」
「構いませんよ。」
「ありがとうございます、はい。・・・そろそろ出来たか?」
交渉は成立したようなもんだ。まぁ、下手なもんは渡さんだろう。ちゃんと受け渡しのときに確認するし。
先ほどから真剣に魔石を見てはブツブツ言っているトニーにゴルスクが話しかけた。
「は、はい。・・・先にこっちの魔石ですが、こちらの魔石は銀貨55枚、そしてこっちが・・・20枚、と判断しました。」
どっちもそれなりの大きさがあるのにそんな差があるのか?
「ふむ?続けて。」
「はい・・・。こちらの魔石は文句なしの質です、ランクBの魔物でしょう。・・・こちらも同じくランクBの魔物のようですが・・・、中心に亀裂があり質も落ちています。なのでこの値段になりました。」
「ふむ、よろしい。・・・では全体の値段はどうかな?」
「えっと、金貨12枚と銀貨30枚、でしょうか?」
若干不安そうなトニーがそう言った。おー、結構稼いだな?どいつがランクBなのか覚えてねぇけど、適当にやってたら森の群れ主とか潰してたパターンだな?
「ふむ、なるほど。・・・まぁ、合格でしょう。・・・すみません、又とない教育の機会なので少々時間を取らせてしまいました。」
「構いませんよ。友人の成長につながるなら喜ばしい事ですから。」
合格判定をもらったトニーがめっちゃ嬉しそうにしている。
「私が見たところ、金貨12枚と銀貨31枚と銅貨15枚でしょう。・・・その金額でいかがでしょうか?」
「はい、いいですよ。・・・その分を鉄で受け取るって事で。」
ちょっと値段上がってて草。まぁ、頑張れトニー。
「・・・あ、念のためにですが。トニーの鑑定でも冒険者ギルドよりは正確でしょう。一介の商人でしたら許容範囲ですよ。」
先ほどから一転して若干落ち込んだ様子のトニーを気遣うかの様にゴルスクがそう言った。
まぁ、これは俺に対する説明も入ってそうだけど。




