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「・・・やっぱり私達異常な事してたんだね。」
「ご主人様に任せてたから・・・。」
ルクとエルも自分達がやってきた事を思い出しているんだろう。なんとも言えない顔をしている。
「いやでもやっぱり魔法って使ってなんぼじゃん?それを思うと・・・。」
(主様、今よろしいですか?)
「それは基本を覚えてからでしょ?・・・ちょっとリー、聞いてるの?」
「ちょ、ちょっと待って、銀から念喋きたから・・・。」
掴みかかりそうな勢いの母さんを止めながらそう言う。タイミングが悪いんですが・・・。
(あぁ、どうした?何か問題が起きたか?)
「またそんなこと言って・・・、基礎を知らないと魔法の扱いも雑になってしまうのよ。」
(いえ、我に問題はないのですが。少し主様にお願いしたいことが・・・。)
「ごめん母さん!マジで銀から念喋きてるから!」
「もう・・・、いいわ。やっぱり私がしっかりしなくちゃいけないわね。シェリーもリーに合わせた教え方はしないでちょうだいね、危ないんだから・・・。」
「わかりました。」
プリプリと怒りながら母さんがシェリーと共にエルとルクの近くに行く。申し訳ないと思うが本当に銀から念喋が来てるんだもん。
(・・・よし、それで?詳細を言ってくれんと判断ができん。)
邪魔になりそうなので少し離れたところで椅子に座って銀と念喋する。
(実は怪我を負った狼の親子を見つけまして、・・・その原因がどうやら我だと思うのです。)
(詳しく。)
銀から話を聞くと川辺で三匹の狼を見つけたそうだ。
母親と二匹の子供で母親の方は傷を負っていて、それはどうやら銀が森を爆進した結果森が異常に殺気立ち、暴れていた他の魔物に群れごと襲われたらしい。今は出来るだけ気配を消しながら走っているのでそんなことはないとの事だが・・・。
それはなんともまぁ不幸な・・・。銀としては見捨てれないんだろう、同じ狼族だしな。
(母親の方は既に命を捨てる覚悟をしています。・・・見知らぬ我に子供達を預けようとしているくらいなので。)
(そうか。銀としては助けたいんだな?)
(はい、・・・傷も治せない我ではどうしようもないのです。)
(ちょっと待ってろ。)
銀の頼みだ、よっしゃ叶えるか!と言いたいとこだが、流石に狼三匹を保護するのは両親の許可がいる。
「母さんって犬好き?」
「急に何?・・・そりゃ好きよ?もしかして銀ちゃん帰ってくるの?」
「んー、父さんも犬好きだよね?」
「・・・まぁ、少なくとも嫌いって話は聞いてないわねぇ・・・。」
「・・・家族が増えてもいい?」
「・・・。」
ツカツカと母さんが怖い顔をしてこちらに向かってくる。流石に怖いがここはぶつかってナンボのとこだ。
「・・・まぁ、そういう理由があるなら・・・、仕方ないわね。」
「ほんと?一応一時的にって感じだけど。」
「私はいいわよ?銀ちゃんの頼みだしねぇ・・・。でもちゃんと父さんにも許可を取りなさいよ?」
「ありがと!ちょっと行ってくる!ついでに銀のとこいくから結構遅くなるかも!」
「はいはい、いってらっしゃい。」
理由をちゃんと話すと母さんは許可をくれた。
(マスター、もしかしてまた使役するつもりじゃないですよね?)
(あぁ、今回はしない。銀も保護を申し出ただけでそこまでは求めてないっぽいしな。)
(まぁ、それならいいんですが・・・。)
シェリーがジト目で念喋を送ってくる。流石にそこまでしねぇよ。
そうとなれば善は急げだ、銀もまたせてるし父さんに許可をもらいに行こう。
「なんだ、急に飛んできたと思ったらいきなり・・・。」
文字通り飛んで行くような速度で父さんに会いに言ったら流石に引かれた。
「ちゃんと世話もするし!もし気に入ったら永住させるようにしっかりと番犬として育てるから!」
「・・・あー、わかったわかった。銀もいるし、今更だな。」
「よっしゃ、ありがとうございます!じゃあ行ってきます!」
猛烈に説得をしたらついに父さんが折れた。
それを聞いた瞬間に気が変わらないうちにダッシュでその場を離れた。
終始他の人達がポカンとした顔をしていたのはスルーで。
(両親から許可がもらえた。すぐにそっち行くけど、今どこよ?)
(ありがとうございます。・・・森です。)
(どこだよ!まぁ、とりあえずそっち爆進する。)
流石に銀も場所まではわからないだろう。
村から少し離れたとこで空中に飛び上がる。母狼が怪我をしているらしいので早ければ早いほどいいだろう。今回はフラボーの出番はない。
目に魔力を通し、ティスカ公国と自分の村、そして銀が走って去っていった方向を思いだし頭の中で大体の方角を決める。・・・銀の速度でまだ森の中ってことは北の方だろう。
今回は遠慮は無しだ。まずは身体能力の強化。
「神速。」
全力の神速だ。
そして、俺を覆うように風魔法で膜を作り、途中で何かにぶつかってもいいように保護する。
最後に気配を完全に遮断し、ここにリードミサイルが完成した。
・・・自分でネタにするのは悲しくなる。
足に思いっきり力を込め、全ての音を置き去りにして横方向にそれこそロケットの様に飛び立つ。
流れる景色が早すぎて完全に目がついていってないが今はそれは気にしなくていい。
銀の気配だけを探れ。
しばらく無心で全力で横方向ジャンプを繰り返す。
(そろそろ何か目印が欲しい。)
(・・・はい、ちょうど狩りに出ているので大丈夫です。・・・森の中を移動しているのですか?)
(飛んでる。)
(そうですか。・・・上空にブレスを吐きますね。)
呆れた感じの銀が目に浮かぶが、上空にブレス吐いてる狼も大概だからな?
(・・・見えた、そっちに向かう。)
まだかなり遠い。ざっと残りが三分の一くらいか。少し軌道を修正しながら横ジャンプ。
(はい、少し離れたとこで狩りをしているので。・・・主様なら我の気配くらい気がつくでしょうが。)
(多分大丈夫だ。)
流石に銀の気配くらい覚えている。しかしまだ距離がありすぎる。
今はせっせと横ジャンプ。
(見つけた。まだ距離があるが一時間くらいでつく。)
(わかりました、ありがとうございます。・・・申し訳ないのですが、我はこの場を離れてもいいでしょうか?)
(ん・・・。わかった。場所は問題ない。)
流石に別れて数日で再会は気まずい。俺としてもそれはありがたい。
まだ距離はあるが銀の傍にいる3匹の気配は覚えた。これなら見失わないだろう。
(主様に何もかも任せてしまうのは申し訳ないのですが・・・。)
(そう言うなって、家族なんだから頼ってナンボよ。)
(・・・ありがとうございます。)
本当に申し訳なさそうに銀がそんなことを言う。まぁ、大黒柱に任せなさい。
いや、本当に銀と会うのは俺が気まずいので逆にありがたい。
「ここか。」
速度を緩めて大地に突っ込む、若干クレーターが出来たが、まぁいいだろう。
銀の気配が去っていったのは確認したのでここにはもういない。代わりに血がついた母狼と子供の狼が二匹こちらを見ていた。めっちゃ敵意むき出しで。
どうでもいいけど銀はどこいこうとしてんだろ、ひたすら北にいってんな。
「結構ひどい怪我だな。銀の言う通りなら怪我したまま走ってたらしいし、治してもすぐに元気ってわけにはいかなそうだ。・・・てゆうかこれ聞こえてる?」
「グルルルゥ・・・。」
めっちゃ警戒されてるわろりん。いや、これもしかして銀俺の事いってないパティーンか・・・?
母狼が今にも飛びかからん程で完全に ちからをためている 状態だ。
「あれぇ?マジで何にも聞かされてないの。んー、あんまり暴れて欲しくないなぁ。」
とりあえず遠くで悩んでても仕方ないので近づく。
「もしもーし?警戒しないでくださーい。」
そう言いながら近づく。
あ、あかんなこれ。これ以上近づくと多分飛びかかってくる。・・・それこそ怪我の事なんて考えずに。・・・子供守るのに全力だわ、しゃあないな。
「・・・。」
無言で威圧を発動する。
母狼の体がビクリとして、動かなくなる。ちょいと体に負担がかかりそうだが、しょうがない。
強引な手だが止まっててもらおう。
そう思ったがその母狼の後ろから唸り声をあげて子狼が襲いかかってきた。
「えぇ・・・発狂状態って感じか?」
威圧もなんか使い所さんが難しいな。これはちょっと可哀想な事をしてしまったかもしれん。
血走った目をしながら子狼が飛びかかってくるのを上手にいなし、片手で首根っこを捕まえるようにして脇にかかえる。まぁ、子供だから軽いな。
バタバタと暴れる子狼達を抑える。・・・いや、念喋使えよ俺。銀も最初それで話しかけてきたやん。
(あー、聞こえてる?動かないでね?)
必死に体を動かそうとしている母狼にそう伝える。
ちゃんと聞こえてるようで体が一瞬硬直したのが見えた。・・・とりあえずこの暴れてる子狼をどうにかしたいな?
すんなりと話がつくように祈りつつ行動を起こしますか。




