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「ふー、名乗られちゃったら仕方ないな。俺はリード。こっちの妖精はシェリー。」
シェリーは軽くお辞儀をする。
「妖精!あなたは何者ですか!?」
「まぁ可愛らしい、触ってもよろしいかしら?」
「…可愛い。」
マーカスは驚いた顔をする。姫様は既に手をワキワキとさせながらこっちに近づいてきてる、シェリーが怖がってるからやめろ。
「そんで、そちらのお二方は?」
自己紹介の続きを促す。
「はっ!私はウォードと言います。先ほどはありがとうございます。」
「いいってことよ。体力までは回復しないから休んでてくれ。あぁ、マーカスも怪我してそうだな。」
一応マーカスにも治癒魔法をかけておく、姫さんは大丈夫だろう。あれ?詠唱は?って顔してマーカスが見ているが気にしない。
「わたくしは、レイニー=ムル=ティスカ。ティスカ公国のティスカ公爵の娘ですわ。」
惜しい。王族じゃなかった。いや公爵でもすげーな、確か爵位の1位だっけ?貴族だな。
「姫様…あまり素性をあかすのは…。」
「何をいってるんですの?この者には礼があります。名乗ることは礼をすることの最低限ことですわ。」
結構しっかりとしてんのかな?いやでも苦労してそうだな、マーカス。顔がすごく渋くなってる。
「…それでお聞きしてもいいですか?あなたは何者なんです?見たところ姫様と同じくらいに見えますが…。」
「何者って言われてもな。俺は俺だし、歳は9?かな。」
「その妖精…シェリーさんといいましたか、その妖精は?」
「え?俺が使役してるんだけど。」
「そうですね、不本意ながらマスターに仕えております。」
シェリーの毒舌炸裂。
「…その歳で?まさか魔族…。」
「いやいや、ないない。りっぱな人族だっての。魔族だとしたら助けてなんてないだろ?」
実際に魔族にあったことないしわかんないけど言っておく。
「確かにそうですな。先ほどの治療魔法は妖精のものですか?」
「いや俺のやつ、ついでにマーカスさんが戦ってたやつの顔吹っ飛ばしたのも俺。」
「…。」
絶句とはこのことだろう。
「マーカスばかりずるいですわ!剣はなんですの?」
レイニーが間に割り込んでくる。そういえば剣出しっぱなしだったな。軽く振るい魔法を解除する。
「これか?木剣に魔力込めて氷で刃作っただけのもんだけど。」
「…?剣に魔力を込める?何を言ってるんですの?」
あぁこんな使い方するの俺だけか、まぁそりゃそうだわな。
「あー、魔法の剣ってことで。」
「へー、珍しいものを持ってなさるのね。」
興味津々に俺の木剣を眺めるレイニー、いやもう既にただの木剣なんですけどね。
「…妖精を使役し、魔法も使え、剣術も相当なものだった。」
マーカスはううむと考え込んでいる。
「うちのマスターは人族の化物なんで気にしちゃいけないですよ。」
それフォローになってないからね?シェリー。規格外から化物にランクアップしてるし。
「…目の前で起こったことを否定することは出来ません。ですが…あまりにも…。」
「世の中には自分が思いつかないことが起こるものです。今回は運が悪かったと。」
「シェリーは俺のこと嫌いなの?」
思わず言ってしまう。
「もちろん愛してるに決まってるじゃないですか、アナタ。」
「安心したよ、ハニー。ハネムーンはどこがいい?」
「アラジー大陸一周なんてどうかしら?」
「それはさぞ素敵な旅になるだろうな、お前と一緒ならどこまででもいける。」
「私もですわ、アナタ。」
唐突に始まる夫婦漫才についてこれない三人、まぁこれはシェリーと俺の息の合った芸だしな。
「リード殿はこの辺りに住んでおられるのですか?」
しばらく話をしているとマーカスがそう訪ねてきた。
この初老の男既に落ち着きを取り戻しておる、出来る男だな。
「あー、んー。」
ちょっと考える、チャンスなんだけどなー。やってみるかなー。
「そのことについて話がしたい。聞いてくれるか?」
「もちろんですわ!わたくしに出来ることならなんでもしてさしあげますわ。」
ん?今…じゃなくて、これはいけそうか?
「ちょっと相談なんですが…。」
「まずはいってみなさいな!そのあとで考えますわ。」
「私を…雇ってみませんか?」
シェリーが小さな手で俺の胸を叩くペチンという音が響いた。