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「えぇ・・・。」
しばらくそんなことをしていたらメルが困惑した顔をしながら帰ってきた。
「ん、休憩か。しっかり休めよー。」
「これ、・・・どうなってるんですか?」
「これ?普通に盾役の訓練だけど?」
「へ、へぇ・・・。」
滅茶苦茶ドン引きしてる。
「・・・。」
既にヒューイは言葉を発してない。ちょっと前から無言でやってる。
「はい、手を伸ばして。」
「あっ、ありがとうございます・・・。」
シェリーがメルを馬車の上に引き上げる。
「ふぅ・・・。」
「森の中どうでした?」
「あ、走りにくかったです・・・。」
「やっぱそうよねー。こんな小さい子に森の中走らせるなんて雇い主も鬼畜よね。」
「は?言うて俺とフランもあんま変わらんし。てゆうかルクもちょっと年が上なだけやん?」
「そういえばこの中でメル君を抜いたら一番年下なんですよね、ご主人様・・・。」
「いや?この中で一番若いのシェリーだぞ。」
「「「「「えっ。」」」」」
ヒューイとシェリー以外の全員がこちらを向く。雷牙と風牙でさえこっちを向いてる。
「あっ、違うわ。ギリギリ雷牙と風牙のが年下か。」
「あら、そうなんですか?まぁ、私達にとって歳はあんまり関係ないですけどね。」
「一瞬。」「凄く焦りました・・・。」
うん、魔法外してたもんね。
「・・・もっと長い年月を生きてきたのかと。」
「違いますよ?生まれてすぐにマスターに拉致られただけです。」
「言い方!」
「生まれて最初に会ったのがこれとか・・・。」
「だから言い方ァ!」
シェリーとルクに小一時間ほど文句を言いたい。
「・・・そろそろヒューイも休憩挟むか。」
「・・・いっそ殺せ。」
年齢騒動でキリがよかったので魔法の手を止めると御者席でヒューイがバタリと音を立てて横たわった。
生かさず殺さずで緩急をつけたのが相当効いたのかな?ヒューイからは荒い呼吸音しか聞こえない。
「そういえばめっちゃ心配なハピはどうだった?」
「・・・あ、最初は凄く動き回ってましたけど。僕がこっち来るときはおとなしくなってました。」
「・・・まぁあいつ絶対マラソン大会とかで前半飛ばして後半お腹押さえて座り込むタイプだしな。」
「あのはしゃぎっぷりは見てるだけならいいんですけどね、見てるだけなら。」
シェリーが的確なことを言う。
まぁ、チラチラと気配探ってたが問題はなさそうだな。メルが抜けた穴はフランが埋めるだろうし。
立ち上がって進行方向に目を凝らす。
「・・・んー、このペースならそろそろか。雷風の訓練もちょっとやめとくか。」
「「はい。」」
「あー、メル。少し休憩したら森の奴ら呼んで欲しいんだけど、大丈夫か?」
「あっ、はい!」
「いや、まだ休憩してていいから。」
雷風の的を出すのをやめ、書いてた歌詞カードを綺麗にまとめて宝物庫にぶっ込みながら指示を出す。
すぐにメルが行こうとしたので慌てて止める。
「・・・なんかこう、俺有能な上司みたいじゃない?」
「そうやってすぐ言うからダメなんですよ。」
「偉そうに指示してるだけの人みたい。」
くっそ辛辣な言葉をシェリーとルクからいただきました。
「あうー、もう無理ー。」
「・・・確かにこれはきつい。」
「歩き慣れてないときついよね。・・・あれ?ヒューイさんどうかしたの?」
そろそろ頃合だったのでメルに三人を迎えに行かせ、みんなが帰って来る。
うん、グロッキーな二人はあれだ。フランを見習って欲しい。
ちゃんと森の警戒も忘れてないし、こっちの状況の変化も見逃してない。
「・・・。」
ヒューイが一応大丈夫だと小さく手を上げて返事をする。律儀だねぇ・・・。
「あー・・・。リー君、あんまり無茶はダメだよ?」
「あい。」
フランが荷台に軽々とジャンプして飛び乗る。
あとの三人はシェリーが引き上げていた。
「そろそろ村が見えるから、後は好きに休憩しといてくれ。・・・、んでどうだった?」
「ん、やっぱり辛かったかな?」
まぁ俺が休憩とか言う前に皆休憩モードに入ってるんだが。
フランに森の中でどんな感じだったかを聞いておく。
「まず走り慣れてないのもあるけど、それよりも体力かな?魔物にも少し会ったけど対応するのが相当きつかったみたいだから・・・。何匹か足止めだけして逃げたかな?」
「ん、そか。個別のも聞いとこか。」
「んー、やっぱりロイさんが一番マシかな。指示を出すのはまだ慣れてないけど、戦闘時の動きは悪くないと思う。メル君も一生懸命してたよ。ハピは・・・、うん。一番動いてたよ?」
「それだけでもうわかるわ。」
普通に報告してたフランがハピのとこだけ目を伏せてたしな。
まぁ、体力つける為に動くのはいいが・・・。動きが大雑把なまま癖がつくのもまずいな。
一回どこかでちゃんと矯正しなきゃいかんな。




