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「よし、今からめっちゃ嫌がらせみたいな事するけど。訓練だから許してな?」
そう俺が言うと皆露骨に嫌そうな顔をした。
朝ごはんを食べて馬車に乗り、出発といったとこでこの発言をしたんだが。
シェリーはまぁ別に真顔だったし、フランもまぁいい。
ヒューイが一番嫌そうだ。
「つっても別に特別なことはしねぇけど。・・・戦闘組はヒューイ以外、森の中入って馬車と並行して走れ。魔物見つけたら迅速に倒せ。んで遅れないようについて来い。んでヒューイは御者として馬車で待機。その間手で武器を慣らしつつ、魔法の訓練。・・・以上。」
「・・・。」
そう言ったら滅茶苦茶静かになった。馬車の音しか聞こえねぇ。
「・・・何か質問は?」
「えっと・・・全員で?」
「皆で。まぁ補足してくと。フランは全員の配置をしっかり見つつ、馬車の位置の把握、魔物の感知。ロイは見つけた魔物の処理、・・・指示も出せるようにしとこうか。んでメルは皆にしっかり着いていく、出来れば見つけた魔物に先制攻撃、んで疲れたらしっかりと馬車に戻って休むこと。最後にハピだが、お前はちゃんとまっすぐに皆に着いていく事。ほい、解散!」
「ちょ、ちょっと僕だけおかしい!」
「お前はそれが一番心配なんだよ。」
そう言いながらハピを手で追い払いつつ、皆を馬車から降りるように促す。
「僕だけ休んでもいいの・・・?」
「ん、いんや。きつかったら皆休んでもいいが。多分休まんでもいけるやろ。・・・メルに関しては自分の体力の限界を見極めて欲しい。・・・自分でまだいけるって思ってもおにーちゃんやフランが言うならこっちに戻って休憩するんだぞ?」
「う、うん。」
ちょっと頑張りすぎる心配があるので釘を刺しておく。
「じゃ、私も休んで・・・。」
「お前はずっと走ってろ。」
「ええーっ!休んでもいいって言ったじゃん!」
「黙れアンポンタン。馬車に降りただけで疲れる奴がどこにいんだよ。」
早速ハピが馬車に戻ろうとするのを足で阻止する。
「おら、さっさと行ってこい。しっしっ!!」
「んー、あんまり余計な事しないほうがいい?」
「ん、あー、そうだな。フランはやりたい様にやってくれ。」
「ん、わかった。」
流石フランはいい感じに俺の事がわかってる。フランに関しては何も言わなくてもよかったかもしれんな。
「・・・本当に言ってた事やるんだ。」
「馬車に乗ってるのが申し訳なく思えます・・・。」
ルクとエルが馬車から離れていくみんなの後ろ姿を見ながらそう呟く。
「・・・心底御者役でよかったと思う。」
「何してんの。さっさと武器出せ。ほら、いくよ。」
「うわっ!!マジかよこいつ!」
油断してるヒューイの目の前に石の塊を魔法で出す。
それを慌てて回避するヒューイ。
「おー、いい感じじゃん?でも回避じゃなくて武器で弾いたりしてほしいな?」
「ちょ、ま、武器出させろ!!」
そう言いながらもヒューイの目の前に石を放り出す。
器用に躱しながらヒューイが武器を出そうとあたふたする。
「・・・こっちは勝手にやってていいですか?」
「おう。あとの皆はシェリーが魔法教えといてくれ。俺はヒューイ専属するわ。」
「はい。」
「え、おい、ま、武器!出させろ!」
その間もヒューイに石の塊が迫る。
めっちゃ変な格好で石を避けてるのが笑える。てゆうかこれだとこっちに石来そうだな。無魔法で壁作っとくか。
「おいおい、敵が待ってくれるとでも?」
「クソがっ!・・・おい、火の魔法は無理だろ!」
「俺は魔法の訓練もするって言ったやん?相殺すんだよ、あくしろー。」
やっとのこと武器を取り出し、石を弾きながらヒューイが馬車の前方に浮かんでる火の玉に気がつき、俺の言葉に反応して慌てて詠唱を開始する。
「・・・私今心底戦闘で雇われなくてよかったと思ってる。」
「うわぁ・・・。」
「まぁ、マスターも無茶苦茶な訓練しますけど、やれないことはやってないですからね。ちゃんと相殺出来る威力と速度で魔法やってますし。」
「後ろから見てるとこっち来そうで怖い・・・。」
「あぁ、見えない壁があるから大丈夫だ。・・・ワンツーマンで教えるとめっちゃやりやすいな?」
「あああああ。俺も森のがよかった!!!」
魔法の詠唱を終えたヒューイが目の前の炎を相殺しつつ御者席でせわしなく石を弾きながら叫ぶ。
その後ろでルクとエルが真顔で呟く。シェリーさんは特に興味もなさそうにエル達の出した魔法の的を作っていた。
「雷牙と風牙に当てないようにしろよー。」
「あっ、我々は。」「大丈夫ですので。」
「申し訳ねぇと思うがっ!本当にそこまでの余裕がっ!ねぇ!」
「まぁ、当たってもダメージ入んねぇか。」
ヒューイの弾いた石が時々雷牙と風牙に当たってるが二頭は別に気にした様子を見せない。
「あー、雷牙と風牙の魔法の的も俺が作るわ。シェリーは二人に集中しといて。」
「わかりました。・・・こっちはこっちでゆっくりやりましょうか。」
「あっ、はい。」
「・・・私達のが大分楽ですね。」
「えっ、これは・・・。」「ちょっと多い様な・・・。」
雷牙と風牙の前方にズラリと魔法で作った的を並べ、そして道中にも石を邪魔する様に配置する。
「いけるいける。動いてない的なんて合って無いようなもんだから。」
「「えぇ・・・。」」
いやー、これならまぁ魔法を使うって訓練にはなるな!
「痛っ!・・・石の後ろに石を隠すな!!」
ヒューイの悲痛な叫びが聞こえるがそれを聞き流しながら羽ペンと羊皮紙を取り出す。
さて、歌詞カードでも書きますか。




