お姉ちゃんの奮闘4
とんでもない、とエドランは思った。
こんなに精巧な魔法を繰り出すとは、既に技術なら上級魔法すら出来るのではと。
「いや、ダメではないんじゃが・・・。」
そして、ラニの言ったことをエドランは思い返す。
やっと、弟に合格が貰えた魔法だと。
この子は嘘のつけない。いや、つかない子なのだと思う。
自分の思ったことを素直に正直に言ってしまう人物なのだと。
なので先ほど色々と問題が起きたのだが、それだとしたら・・・。
「その、魔法は・・・誰に習ったのかの?」
「これですか?母が教えてくれた魔法を弟が効率が~とかなんとか言って・・・、こうしてました。・・・便利ですよ?」
若干不安な顔をしてラニがエドランに言う。
ラニは何かいけない事をしてしまったのか不安なのだが、エドランからしたらただただその技術の高さに驚愕するしかない。
「・・・。」
しばらくエドランは言葉を失い、考える。
その様子をハラハラしながらラニは見ることしか出来ない。
「・・・わかった。合格じゃ。」
たっぷりと時間をかけてエドランは答えを出す。
「ホントですか!?やったーっ!!」
それを聞いてラニが飛び上がって喜ぶがエドランとしては複雑だった。
危険すぎるのだ。
この歳でこれだけの技術、そしてラニの性格からして何か厄介な事に巻き込まれてしまいそうである。
それは余りにおしい、これだけの才能を持った子が埋まってしまうのは避けたい。
しかし、ここ、今の魔法団の環境はいいとは言えない・・・。
「・・・わしが頑張らねばならんのう。」
「あー、早く皆に連絡したいなー!」
浮かれてるラニを尻目にエドランはこれからの事に向けて段取りを考える。
・・・まずは自分の側に確実に置いておけるようにしておかねば。
「早速じゃが、いくつか手続きがあるので着いて来て欲しい。」
「は、はい!」
「なぁに、簡単じゃから大丈夫じゃ。・・・それにもう少し話もしておきたいのでのう。」
浮かれていたラニがピンと背筋を伸ばすのをエドランが眺めながらそう言った。
「まぁ、わしの事も少し話しておこうかの。わしは所謂古代魔法について研究しておっての。」
「古代魔法・・・ですか?」
「そうじゃ、今の時代で失われてる魔法の研究・・・じゃな。人族が使用困難な魔法も少しじゃが研究しておるな。」
「へー、・・・それって妖精魔法とかですか?」
「ほう、よく知っておるな。」
「はい!弟が・・・えっと・・・、知り合いの妖精さんが教えてくれたので少しなら使えます!」
若干言葉を濁しながらラニがそんな爆弾を投下した。
「な、なんじゃと・・・?」
既にこれ以上驚くことのないと思っていたエドランの足が止まり、そして同時にこれはかなり大変な事になると確信した。
「あっ、でも本当に少しですよ?根っこを少し出したり、植物の成長をちょっぴり助けたり・・・。」
「・・・いかんのう、これはもう少しちゃんと話しておかんと。」
「へ?」
「いや、いいんじゃよ・・・。全くどんな指導者なんじゃ・・・。」
あせあせとラニが言うのを心配そうにエドランが呟く。
この少女は自覚が全くないが大きな爆弾だろう。
しかも、この子を教えていた、母と弟にも問題が色々あるとエドランは思った。
「・・・とりあえず、わしの研究室にいこうかの。」
「あっはい!」
元気よく言うラニにエドランなんとも言えない顔になる。
もはやこの歳でこんな逸材に出会えるとは、・・・惜しいのは技術は高いがそれを操る人物が余りに幼いことだろう。
この少女を正しく導かなければならない。そうエドランは心に決めた。
「急に呼び出しなんて珍しいな?」
「いや、少し気になる事があっての。・・・ちょっと行って欲しい場所があるんじゃが。」
「・・・私じゃないとダメなのか?」
「・・・多分ダメじゃろうな。と、言うか全く見当がつかんので信頼が出来る者に行ってもらいたいってのがあるの。」
とある一室でエドランがガタイのいい男と向かい合ってお茶を飲んでいた。
「ほかならぬ爺の頼みだから引き受けるが・・・。詳しい話を聞きたい。」
「お前ももうこっち側なのじゃがな・・・。いや、とある村にある少女の護衛として行って欲しいのじゃ。」
「・・・あぁ、あの子か。」
この二人が並ぶとそうは思えないが実際の年齢はエドランが多少年上だった。
エドランに比べ、この男ががっちりとしすぎているからだ。
少し白髪の混ざった髪、胸当て越しからも盛り上がっていると感じつ胸筋、腕の太さはエドランの倍はあるだろう。
「うむ、そうじゃな。」
「・・・いくら爺がその子に入れ込んでいると言ってもそれだけじゃないんだろ?」
「まぁ、それだけならお前に頼む事はしないじゃろな。・・・ここからが本題なのじゃが。」
男は笑みを浮かべながらもその先を促す。
「その子の家族に会って欲しい、特に弟の情報が欲しい。」
「・・・ほう、詳しく聞こうか?私が出る程なのかどうかを。」
エドランの真剣な顔を見て、男は笑みを消した。




