223
野菜を持った白く細い手が水に濡れる。
その野菜をまな板に移し、トントンとリズムよく包丁で切っていく。
途中手を止め、鍋を定期的にかき混ぜる。
その度にフリルのついたメイド服のスカートが揺れる。
チラリとこちらを見て顔を少し赤らめ、恥ずかしそうにしながらもそれでも手を止めずに料理を仕上げていく。
「はぁー、なんだこの理想郷。」
「本当にアホ。」
「いやらしい目でお姉ちゃんを見るなっての!」
ポカポカ…、いやボコボコと俺を殴ったり蹴ったりしてくるルクを片手でいなしながらエルを眺めてため息と共に言葉を吐き出した。
シェリーは無表情で言葉を出し、同じようにエルを見ていた。逆に怖い。
「つうかルクさんも仕事しよ?」
「あんたが見てるから出来無いんでしょ!」
「いや、これが俺の仕事だから。」
失礼なことを言ってきたルクに仕事を促したがダメだった。
さっきまで普通に仕事してたのに、俺が見てると気づいてからはこれである。
黙って仕事してれば普通にメイド姉妹で眼福で心のHDDが埋まるってのに。
「えっと…、ルク。ちょっと手伝って?」
「ほら、お呼びだぞ。」
「くっ…、今行く!」
エルに呼ばれ、キッと俺を睨みつけてルクがエルを手伝いに行く。
よっしゃ、心のHDD埋めるチャンスやんけ!
「まだ見てるし。」
「ご主人様ものんびりしたいだけだから…。」
「絶対にそんなことないよ。いやらしい目で見てるだけだって!」
「そんなことないと思うけど…。」
失礼な事を言ってるなあいつは。のんびりしたっていいじゃない。
「はぁー、癒される。」
「…本当にアホ。」
そう言いながらもシェリーさんも癒されるのかエルとルクの料理を眺めていました。俺と同じように自分で椅子を作り上げて座って。
「やっふー!!」
「ただいまー。」
「おう、おかえり。どうだった?」
しばらくのんびり眺めていたらフラン達が帰ってきた。相変わらずテンションの高いハピを無視してフランに話し掛ける。
「んー、やっぱりリー君いないと獲物を探すのに時間かかるね。」
「まぁ、俺のは探してるんじゃないしな。」
探すのならフランで十分だろう。ってか気配察知あるし、普通にヒューイ達よりも見つけるのは早い。
「あとは、ヒューイさんは大分慣れてきたね。ロイさんはまだかかりそう。メル君は考えながらやってるのかな?ちょっと止まってるのが気になるかな。…ハピは相変わらずかな。」
「ん、大体予想通りか。」
俺が思ってた通りだろう。
こうゆうのに慣れるのは2パターンある。…いやもっとあるけど、大体これ。
ひたすらに体動かして慣らすのと考えて動かして慣らすパターン。
ヒューイはこの中で一番実戦経験豊富なのでこれの複合型。考えながらひたすら体動かして慣らしていってる。
ロイは前者寄り、もうちょい時間かかるだろう。
メルは後者、ただ経験が少ないので考える時間が多い。
ハピはアホ。感覚で動くタイプなので無理に矯正しても治らない方が多い、なので上手く誘導して使えるようにしないといけない。これはヒューイが頑張れ、今までもやってたっぽいし大丈夫だろう。武器与えた事によって加速しちゃってるけど。
「やっぱりハピが危なっかしいかなぁ。」
「まぁそうだな。つってもしっかり見てたでしょ?ヒューイもそれを想定して動いてるだろうし。」
「うん。なんかリー君見てるみたいだったよ?」
「んな馬鹿な…。」
愕然とする。
確かに俺は感覚で動いてるように見えるだろう。でもそれはめっちゃ早い思考回路を使って考えて動いてる結果なのでちゃんとしてるんだよ。大体FPSで鍛えた脳はここでも健在だ。
ただ感覚で動いてるのも多いのでなんとも言えないとこだが…。
「いや、俺は考えてるからね?つうか俺くらいになると全てが計算されてるからね?つうか動きがダンチだし?普通に俺見えない速度で動いてかく乱ってか全滅させるし?」
「…そんなにハピと一緒なのが嫌なの?」
うん、嫌です。




