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「コツさえ掴めれば余裕でまっすぐ飛ばせるんだけどな、っと。」
「それにしても異常な命中率だと思うんですけど…。」
カッ、と音を立ててクナイが木に描いた的に命中する。
ロイと一緒に見張りをしながら投擲の練習中だ。
見本。いや、俺も慣れるまで少しかかったが慣れたら楽なもんだ。
ちょいとコツを掴めばすんなりいくだろう。今のとこロイの命中率は5割程度か、動いてない的にこれだと実戦だと更に悪くなるな。
「投げ続けてれば慣れるだろうさ。」
「なんでも出来るって言ってましたけど、投擲も凄いんですね…。」
「割と手を出しやすいやつだったからな。投げ続けてれば鍛えれるさ。」
「凄く無茶苦茶な事言われてる気がするんですけど…。」
実際そうだからそうとしか言えない。最初動かない的に投げ続けて、慣れてきたら風魔法で的動かして練習してたからな。うん、魔法って便利。
「そういえば、お兄ちゃんはなんでハピ達と一緒に残ったんだ?」
「えっと…。まだ僕も幼かったし、メルももっと小さかったからね。爺さんが残ったほうがいいだろうって言ってくれて…。」
「あ、そりゃそうか。…流石に幼いメルを連れて二人で生きていけってのも無理だわな。」
「それもあるけど、僕もまだ拾ってもらったばっかりだったから何も出来なくてね…。」
拾ってもらったってことは、まぁヒューイとおんなじような境遇か。
生活力のない二人で生きてけってのも無理な話だ。爺もせめて手に職をつけてからって考えたのか、俺がそれをぶち壊したわけだが。いや、就職には困らんようにはするけど。
「幸いにも僕はある程度戦えるようになったけど、メルがもう少し大きくなるまではって話だったんだけど…。」
「ほいきた俺のせい。」
「い、いや、別にそういう意味で言ったんじゃなくて…。」
いつものノリで言っちゃったけど、まだロイは俺に対して一歩引いてるとこがあるな。
もうちょいフレンドリーに接して欲しいものだが…。
「いや、まぁ冗談だけどさ。」
「う、うん…。」
「まぁ、幸いにもメルには魔法の才能あるっぽいし?体の成長と同時に戦力としての成長もさせればいいさ。」
「う、うーん。そう、だね。」
うん?うーん、なんだろ、この噛み合ってない感じ。前の模擬戦の時も違和感あったけどこれもしかして。
「もしかして、メルを戦わせたくないとか?」
「うっ…。」
図星ですか、そうですか。
「なるほどな。出来れば、そういうことには関わって欲しくないと。」
「…うん。唯一の家族だし、ね…。」
どこか遠くを見るようにロイがそんなことを呟いた。
あぁ、これは深く突っ込んじゃいけないやつだな。空気でわかる。
「…そっか。だが、俺は知らぬ!!」
「!!!…そうだよね。」
きっぱりと言い切ってやった。諦めたような顔をするロイ。
「俺はメルの意見を尊重させてもらう。メルが手伝いたいって言うなら俺はそれをサポートさせてもらう。」
「えっ?」
「兄ちゃんの意見は二の次だな。…まずはメルが満足するまで力をつけさせてやる、そのあとどうするかはメル次第だな。」
多分、メルはもっと皆を手伝いたいんだろう。魔法の訓練するっつったときの反応もそうだし、パチンコモドキの時もそんな反応してたし。これはまた明日話してみないと確定じゃないが、そう捉えてていいだろう。
「…。」
「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だって。俺がメルくらいの時なんて森入って手当たり次第に魔物屠ってたぜ?」
「いやいや、比較する対象がおかしいでしょう…。」
苦笑しながら突っ込んでくれた。その後ハッとした顔になったがちょっとづつでも打ち解けてって欲しい。
「まぁ、多分今の環境がこの世界一安全だぜ?…銀いないから完全な状態じゃねぇけど。」
「確かに…。そう言われればそんな気がします。」
居を構えてないって現状でも安全だろう。てゆうか割と無茶苦茶やってると思われがちだけど、安全面を第一に考えてる楽しい職場ですよ?いや、マジで。
「ぬるい環境で腕が磨けるならそれはそれでいいじゃないか、磨いといて損はないだろうしな。」
「そうですかね、っと。」
そう言いながらロイが放ったクナイは的を外れて暗闇に消えていった。




